ひとつは、工事用道路の地すべり対策に時間がかかったこと。2つ目がダム本体を建設するための掘削量が増えていること、3つ目は、コンクリートの打設量が現場の状況によって増えたこと。4つ目は、働き方改革で労働条件を考慮して土日を休日とし、適正な工期を算定したからだというのだ。
「より詳細な地質調査をすればするほど、細かい情報がわかってまいりますので、その情報に基づいてダムの断面を決めると、少し掘削量が増える。掘削量が増えるとコンクリート量も増えることになる。そういう形で工期が延びる」(建設専門官)と懇切丁寧な説明である。
しかし、働き方改革は2019年以降に始まった。工期延長の理由はほとんどが地質の問題だということになる。
「削っていっても岩盤が出てこなかったらどうするのか」と尋ねると、建設専門官は「仮定の質問にはお答えできないが、1本や2本のボーリング調査だけで決めているわけではない。面的に100本以上のボーリング調査をやって必要な強度の岩盤を確認しているので、岩盤が出てこないことはない」と述べた。
しかし、地元密着で設楽ダム事業を監視してきた伊奈さんは、これにも反論材料を持っている。
掘ったら崩れ、さらに掘ったら空洞が
「国交省が横坑調査(横穴を掘り、岩盤などを観察する調査)をやって20mで止めたところがある。穴を掘った地元の土建屋が、『あんなところにダムはできんぞ、えらいこっちゃ』と言うので、ダム工事事務所に交渉してその横坑を見せてもらったことがある」と伊奈さん。
「掘ったら崩れてくるので、『どうする?』と国交省に聞いたら、横坑を木枠ではなく鉄骨で作って、枠の間隔を狭くしろと言う。その通りにやってみたら岩が出てきた。そこで発破をかけたら、奥に大きな空洞があった。また『どうする?』と国交省に聞いたら『止めろ』というので止めたと聞いた」と振り返る。
それを見に行ったのに、「横坑に入ったら空洞の前に川砂が積んであって空洞を見えなくしてあった」と残念そうだ。
この一件を建設専門官は「知らない」と述べた。ただ「横坑は無尽蔵に掘るわけではなく、必要な範囲まで調査をするものだ」という。