事業者である国交省河川計画課の建設専門官に聞くと、伊奈さんが聞いた通りの説明が、より詳しく返ってきた。

「地すべり対策をするにあたって、上に大きな荷重がかかって滑るといけないので、できるだけ地山に影響を与えない工法を採用した結果、鉄骨の工事用道路を整備した」というのである。

「他では見たことがありません」と促すと、「私も初めてです。全国的に見ても、ああいう形で工事用道路を整備するのは、ないことはないと思いますけど、あれだけの規模というのは珍しい」と率直だった。

最悪の地質、砂山に作られるダム

 地質の悪さはコンクリートダムが設置される谷も同様に見えた。その谷の両側へと、伊奈さんに案内されるまま、踏み込んでいくと、あちこちに地すべり対策の工夫が見えた。山肌を切って作った工事用道路のひとつでは、礫を詰め込んだ蛇籠を何段にも積み上げて法面を支えていた。

 そして、ダム左岸の天端(最も高いところ)が作られる高さに着くと、真正面に右岸の山が見えた。鉄骨上の作業道路の高さで山を削っている重機が米粒のように小さく見えるが、山肌は石ころ混じりの砂の山に見えた。

ダムが取り付けられるはずの右岸は、土砂や礫を寄せ集めた砂山にしか見えない(2024年8月11日筆者撮影)
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 日曜日とあって工事も休み。右岸側へ回り込んで、至近距離で見ても、どう見ても石や岩混じりの砂山だった。