2018年夏、愛媛県の肱川流域で、ダムの「緊急放流」により5人もの命が奪われた。5年が過ぎた今、それは人災だったと問い続けている遺族がいる。
緊急放流による氾濫で流された夫
「裁判のきっかけは、被害がダム操作で起きたことを知ったことです。知識がない状態でしたが、人災であることをはっきりさせたいと思った」
そう語るのは、国土交通省四国地方整備局(以後、四国地備)が管理する野村ダム(西予市野村町)の緊急放流で夫を亡くした入江須美さんだ。
2018年7月7日当日の朝、須美さんは仕事場に呼ばれて朝6時前に自宅を出た。4日夜から雨は肱川流域に断続的に降り続けていた。
「私が家を出る前、夫が川を見に行き、少ない放流を見て近所の人に『まだ大丈夫だ』と言っていたのを聞いているんです」(須美さん)
家を出てしばらく行くと、土砂崩れで先へ進めなかったため、仕方なく自宅に引き返そうとした。家にいた夫とは、携帯電話で互いの様子を断続的にやり取りしていた。
6時40分、「溢れ始めた。今、氾濫した。避難避難!」と言ったのを最後に夫の声が切れた。
「その後、繋がらなくなったので、夫は携帯を落としたのかと思ったんです」(須美さん)