オーバーツーリズム対策の内容によっては不利益を被る観光関係者も(写真:KPG-Payless/Shutterstock.com)

訪日外国人旅行客(インバウンド)はコロナ禍からの完全復活を遂げ、2024年には史上最高となる3687万人を記録した。観光地はインバウンド消費に沸く一方で、オーバーツーリズム(観光公害)の問題が顕在化している。そうした中で、自治体に「宿泊税」の導入、拡大の動きが相次いでいる。

“利用者負担”の原則でオーバーツーリズム対策の費用は観光客にも身銭を切ってもらおうという趣旨のようだが、事はそう簡単ではないようだ。北関東の小さな温泉地で旅館を営む女性は、「もし宿泊税が導入されたら、うちのような旅館には大打撃」と警戒する。どういうことか?

(森田 聡子:フリーライター・編集者)

『本当に税金?』と不快感を示す宿泊客も

 北関東の温泉地で両親と旅館業を営む50代の女性は、最近、地域や同業者の会合などで宿泊税が話題に上ることが増えたと話す。

「隣の県でいよいよ導入されそうなことが大きい。当初は1人1泊につき200円。大した金額ではないように感じるかもしれないが、もし県が導入したら、うちのような宿には痛手」

 女性の旅館は人気温泉地の多い県内では地味なエリアにあり、リピーターの湯治客や学生サークルの合宿などが売り上げの中心だ。いずれも1泊きりではなく、2~3泊から長ければ1カ月ほどの長期滞在になる。

「1人1泊150円の入湯税をいただくのも気が引けるのに、仮に宿泊税が200円加わって350円になったら、1カ月で1万円を超える負担になる。お客さんに申し訳ない」

 低料金で上質な温泉と田舎の家庭料理を楽しんでもらいたいと、光熱費や食材費、備品価格などが高騰する中、1泊2食付きで4ケタに収まるよう宿泊料金を維持してきた。長期滞在者には割引制度もある。

 しかし、宿泊税が導入されればそんな努力も水の泡。宿泊客から見れば実質“値上げ”に等しいからだ。

「入湯税がそうだが、うちの収入になるわけではないのに徴収や申告・納税にはそれなりの手間がかかる。お客さんの中には『本当に税金なの?』と不快感を示す方もいて、踏んだり蹴ったり」