
国産材の需要低迷などもあり、人の手が入らなくなった日本の森。ひとたび人工林に足を踏み入れれば、スギやヒノキなどの針葉樹がうっそうと生い茂り、むき出しの岩が転がっている。こうした荒れた山の再生は難しい課題だが、一つの可能性を示すプロジェクトが三重県尾鷲市で始まっている。(篠原匡:編集者・ジャーナリスト)
◎1回目:2100年の人口は6300万人!人が消える地方で公共サービスはどこまで持続可能か?
◎2回目:住民が減り続ける中で公共サービスを維持するには?悩み抜いた奈良市が辿り着いた解答
◎3回目:「議会でなければできないことは何か?」Local Coopの背後に隠された壮大な構想
昨年11月30日、尾鷲市にある「みんなの森」では、長靴と軍手で“武装”した人々が「シガラ」作りに精を出していた。
シガラとは、木の枝と落ち葉で作った柵のようなもの。杭を打ち、横木を並べ、地面に枝を突き刺して、その枝を横木や他の枝と絡ませる。そして、ちょっとやそっとでは抜けないように力を入れてぐいぐいと枝を押し込むと、絡み合った枝と斜面の間に落ち葉をできるだけたくさん詰めていく。
「しがらみ」とは、切っても切れないような人間関係を示す表現である。シガラは、その語源となった言葉。水害や土砂崩れを防ぐ、日本古来の伝統的な土木工法として知られている。

このシガラを「みんなの森」で組んでいる理由、それは斜面を流れる水の勢いを緩め、山肌に水を染み込ませるためだ。
管理が行き届いていない人工林は水を掴み、吸収する能力が落ちているため、雨が降ると、水はそのまま斜面を流れ落ちる。それは、斜面の崩落を招くだけでなく、土砂が海に流れ出ることにもつながる。
加えて、針葉樹が中心の人工林は広葉樹の森と比べて、そもそも生物が少ない。こうした生き物が消えた森は全国各地に広がっている。
シガラ組みの舞台である「みんなの森」も同じような状況にあった。