大神神社の脇に置かれた資源ゴミの回収ボックス。13種類の資源ゴミを回収する大神神社の脇に置かれた資源ゴミの回収ボックス。13種類の資源ゴミを回収する

 2008年の1億2808万人をピークに人口が減少に転じ始めた日本。国の人口推計では、2056年には1億人を下回り、2100年には6300万人に半減する見込みだ。人口減少の影響は既にあらゆるところで噴出しているが、地方が直面している現実はとりわけ厳しく、集落からいよいよ人が消えつつある。

 本格的に地域住民が減り始める時代に、どのように暮らしとコミュニティを維持していけばいいのか。奈良市や三重県尾鷲市で始まったLocal Coop(ローカル・コープ)の取り組みを追う。(篠原匡、編集者・ジャーナリスト)※文中敬称略

 奈良県と三重県の県境に広がる奈良市月ヶ瀬。五月川(名張川)の急流がつくり出した渓谷と、1万本を超える梅林で知られる風光明媚な地域である。

 その月ヶ瀬では、ある社会実験が始まっている。公共サービスの住民への“移管”と住民自治の実現である。

 例えば、資源ゴミの回収がそうだ。月ヶ瀬月瀬地区の高台に立つ大神神社の脇には、資源ゴミの回収ボックスが並んでいる。その分類も、ビン・カン・ペットボトルというよくある分類ではなく、透明ビンや茶色ビン、アルミ缶やスチール缶、ペットボトルキャップ、冷凍食品トレー、ゼリー容器、食品保存容器、豆腐容器など13種類の細かさだ。

冷凍食品のトレーやタッパー容器なども分別して回収する冷凍食品のトレーやタッパー容器なども分別して回収する(別の場所の回収ボックス)

 回収ボックスは月ヶ瀬にある6地区の自治会館に設置されており、住民自ら資源ゴミを持ち込む。そうして集まった資源ゴミは、一般社団法人Local Coop 大和高原(LC大和高原)の担当者が回収し、リサイクル会社に売却していく。

 奈良市が直接回収していた頃と比べて回収場所は6分の1になったが、いつでもゴミが出せると、住民の評判は上々のようだ。石打地区の自治会長、東正彦は「これまで月1~2回だったものが小出しにできるので、とても便利になりました」と語る。

「これまで月1~2回だったものが小出しにできるので、とても便利になりました」と語る石打地区の東正彦氏「これまで月1~2回だったものが小出しにできるので、とても便利になりました」と語る石打地区の東正彦氏

 また、2024年4月からはLC大和高原によるコミュニティバスの運営も始まった。こちらも奈良市の直営だったが、LC大和高原に運営を委託した。LC大和高原は、委託費から運転手の人件費やガソリン代をまかなっている。

 直営時代は、主に月ヶ瀬尾山地区の診療所に行く人が利用するコミュニティバスだったが、現在は、診療所とそれぞれの地区の自治会館を回る1日4便の循環路線になった。車両は奈良市からの貸与である。

 現在のところ、乗客はあまりおらず空気を運んでいるような状況だが、「地域の足を住民の手で運行するという一つの実験」と奈良市長の仲川げんが語るように、人口減少時代において、「移動の足」をどう維持するかは地域の持続可能性を考えるうえで、避けて通れないテーマだ。

駐車中のコミュニティバス駐車中のコミュニティバス

 今のところ、奈良市からの委託は資源ゴミの回収とコミュニティバスの運行に限られているが、生ゴミを含む燃えるゴミの回収や公共施設の運営などの委託も視野に入れている。