「生物多様性の森づくり」でカギを握るキノコとコケ

 また、水脈を表に出す時には、幅の広いところと狭いところを意識して作るといいという。流れを複雑に作ると、速い流れを好む生き物、淀みを好む生き物など、いろいろな生き物が棲み着くことができるからだ。

 実際、「みんなの森」には他と比べてながらの幅が広いところがあったが、坂田に聞くと、それも意図して作ったそうだ。

「この辺の流れは浅いでしょう。ここはぜひ鳥たちに使ってほしいと思っているんです」

 鳥は、羽についた寄生虫などを落とすために水浴びをする。ただ、自然に人間の手が入ったことで、鳥が水浴びしやすいような場所はどんどん減っている。そんな水浴びの場所になれば、と考えているのだ。

 坂田が鳥を重視しているのは、その植林能力の高さゆえ。どこかの森で実を食べた鳥は糞として種を落とす。鳥が落とした種は発芽率が高いことで知られており、鳥がどんどん遊びに来れば、森の植生が豊かになる。

「みんなの森」で甦ったものは他にもある。例えば、倒木や岩の周りに生えるキノコやコケだ。

 坂田はある切り株を指さして、ワークショップの参加者を呼び寄せた。指の先には、コケの乗った切り株がある。切り株に空いた穴に指を入れると、その中は空洞で、下には土がたまっていた。腐朽菌のキノコが切り株を分解しているのだ。

 余談だが、枯れ木を分解できるのは腐朽菌だけ。腐朽菌がまだ誕生していなかった古生代後期には、巨木が枯れても分解する生物がおらず、そのまま埋もれて炭化した。それが石炭である。

 また、キノコには枯れ木を分解する腐朽菌の他に、菌根を作って植物と共生する菌根菌も存在する。こうした菌根菌がいれば、菌根を通して窒素やリンなど必要な栄養素を手に入れることができるため、その周辺の生育環境はより良くなる。

 もう一つ、生態系の回復でカギを握るのがコケの存在だ。

 腐朽菌は枯れ木をどんどん分解していくが、コケが乗っている部分は分解が遅くなる。また、コケは水をつかむため、コケのあるところにはスポンジのように水がたまる。つまり、この切り株のように、コケが乗っている場所は新しい土が生まれているうえに水が豊富にあるという、植物にとっては天国のような場所だ。

「しかも、切り株だから他のところよりも高いでしょう。他の草木と競争しなくて済むベストポジションです。こういう切り株があると次世代が育ちやすいので、木を切る時は抜根せずに切り株を残したほうがいい」

 坂田によれば、キノコやコケが生えている森は次世代が用意されている健全な森。逆に、こうした環境が整っていなければ、針葉樹林にいくら広葉樹を植樹しても、うまく広がらない。