作業道を通して失ったもの

 坂田の指導の下、生物多様性を回復させるためにした取り組みはいろいろあるが、その中でも代表的なものが冒頭で書いたシガラ組みだ。

 尾鷲の森は斜面が急なこともあり、木の切り出しでは主にワイヤーロープを使った架線集材という手法がとられてきた。ただ、一般的な作業道を活用した切り出しよりもコスト高になりやすく、それが赤字の大きな要因になっていた。

 そのため、作業道を通せる山には作業道を通し、切り出しや搬出のコストを抑えるという方針がとられるようになった。「みんなの森」のある頂山(いただきやま)でも、2021年に作業道が整備されている。

 この作業道によって搬出のコストは確かに減ったが、山肌を削り取ったこともあり、雨が降ると作業道に水がたまったり、周辺の土が少しずつ流れ出たりするようになったという。

 その状態を放置しておくと、沢や谷に土砂が流れ出てしまう。そこで、水の流れを弱めるために、山の上の方からシガラを組むことにしたのだ。

「みんなの森」。作業道を通したことで、土砂が谷に流れるようになったという作業道を通したことで、土砂が谷に流れるようになったという

 坂田のワークショップは2024年1月から6月まで、月1回のペースで開催されたが、最初の3カ月はシガラ組みにリソースを割いた。

 このシガラ組みは、ワークショップに参加する誰もが体験するイベントである。この日の参加者も坂田の指示に沿ってシガラを組んでいたが、ほとんどの参加者にとってはシガラ組みは初めての体験だ。みな慣れない作業に苦戦していた。

 そんな参加者の様子を見ながら、坂田はシガラの要諦について話していく。