
国境を超えてリモートワークする「デジタルノマド」について、新たな弊害が指摘されている。欧州で極右勢力が台頭する一因になっているのではないかというのだ。デジタルノマドの滞在先として人気のポルトガルでは、政権崩壊を受けた5月中旬の解散総選挙で極右政党シェーガがどこまで票を伸ばすか注目されている。背景には、地域住民より所得水準が高いデジタルノマドの流入が物価や家賃の高騰に拍車をかけ、市民の生活が圧迫されている可能性がある。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
3月11日、ルイス・モンテネグロ首相の信任決議案が否決され政権が崩壊したポルトガルでは、5月中旬に解散総選挙が実施されることになった。この3年あまりで3度目の総選挙という異常事態だ。
今回の選挙は、首相の家族が所有するコンサルティング会社の取引における利益相反疑惑を受けてのものだ。その上、昨年3月の総選挙も前首相の汚職疑惑にまつわるものであり、国民にしてみれば政府は一体何をしているのかとの思いではないだろうか。
政権の不祥事が続く中で、着実に勢力を伸ばしてきた政党がある。2019年に設立された極右政党のシェーガだ。2022年の総選挙では7%ほどの得票率だった同党は昨年18%と躍進し、議席も12から48に伸ばし、第3党の位置につけている(定数は230)。
欧州では昨今、独仏伊などの大国に加え、オランダなどでも極右政党の急伸が目立つ。ポルトガルのシェーガもその一つであり、同党の勢力拡大に危機感を訴える報道が少なくない。ベントゥーラ党首は、黒人やイスラム教徒などに対する、あからさまな差別発言などが度々問題視されている人物だ。少数民族であるロマ人に対して「福祉中毒」などとののしり、2022年に罰金刑を受けている。
他の欧州諸国と同じく、ポルトガルでもコスト高や住宅危機は有権者の大きな関心事で、極右はこうした問題の多くを移民問題にすり替える傾向にある。無論、シェーガも厳格な移民対策を掲げてきた。
こうしたポルトガルでの政局を受けて、英テレグラフ紙は3月12日付の記事で興味深い分析をしている。反移民を掲げるシェーガ支持の背景の一つが、いわゆる「デジタルノマド」であるという考察である。
日本では「ノマドワーカー」とも呼ばれるデジタルノマドだが、簡単に言えば、一つの場所に縛られず、インターネットを介してリモートワークを行う人々のことを指す。「ノマド」には遊牧民や放浪者という意味もあり、移動しながら働く人々とも言えるだろう。
デジタルノマドはリモートワークが広く普及したコロナ禍以降に急増したという。そのコンセプトは、同名の著書が刊行された90年代からすでにあったとされている。現状、デジタルノマドは世界におよそ4000万人いて、2024年の調査ではそのうち44%程度が米国人、次いで7%が英国人とされる。トランプ大統領選出後の昨秋以来、デジタルノマド向けに各国が発行している、いわゆるデジタルノマド・ビザ(査証)について調べる米国人も急増しているという。
日本でも最近、デジタルノマド・ビザを提供している。在留期間は半年に設定されており、また個人の年収が1000万円以上であることを証明しなければならない。