
イスラエルと米国によるイランへの攻撃が、民間航空機の「空路」に深刻な影響を及ぼした。多くの航空会社が当事国などの中東上空を回避することを余儀なくされ、「停戦合意」後の現在(27日時点)も影響が続いている。ロシアによるウクライナ侵攻後は、航空会社の多くがロシア上空のフライトを回避せざるを得なくなった。紛争や戦争が起きるたびに迂回を余儀なくされ、フライトの時間とコストは上昇する。渡航する乗客にとっては、うんざりさせられる事態だ。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
6月21日、遂に米国がイランの核施設を攻撃し、中東情勢は一気に緊張が高まった。その3日後、トランプ米大統領はイランに加え、長年の同盟国であるイスラエルを鼻息荒く恫喝した。同氏が前日SNSで「神よ世界に祝福を!」などと高らかに宣言した「停戦合意」が、当事国によっていともたやすく破られ、特にイスラエルが「今までに見たこともないような量の爆弾投下(トランプ氏談)」をしたからだ。
とかくオバマ元大統領をライバル視してきたトランプ氏は、どうやら本気でオバマ氏に並ぶべくノーベル平和賞を受賞したいらしい。トランプ氏にしてみれば、側近にさえ事前に知らせていなかったという思いつきのような「SNS停戦」で地域に「永遠に」和平をもたらしたはずが、同盟関係にあるイスラエルから公然と反故にされ、顔に泥を塗られたに等しい。
怒りに燃えたトランプ氏は記者団に「奴らは自分たちが何をやってるのか全く分かっておらん!」とぶちまけた。和訳すると大したことのない表現だが、原文は「they don't know what the fuck they're doing!」である。
現職の大統領が公の場、しかもカメラの前で放送禁止用語であるFワードを喚くという衝撃的な珍事に色めきたった欧米メディアやトーク番組などはこぞって「トランプ大統領、F爆弾投下!」と騒いだ。しかしそのトランプ氏や、先にイランに攻撃を仕掛けたイスラエルのネタニヤフ首相らに対し、それこそFワードを用いて「何やってんだ!」と叫びたかったのは、世界の航空関係者ではないだろうか。
米CNNは21日、航空各社が昨今、安全確保のため紛争地帯の迂回を頻繁に余儀なくされている実態を詳報した。CNNの記事にはイランへの攻撃開始後と見られるフライト・トラッカーの画像が掲載されている。
地図上では多数の航空機が所狭しと飛行するのがわかるが、アジアと欧州間の上空にぽっかりと穴の空いたスペースがいくつか確認できる。こうした「穴」には地上で起きている紛争による空域閉鎖などで、航空機が飛ぶことのできない領空が含まれる。
欧州航空安全機関(EASA)は、イスラエルがイランの核施設や革命防衛隊などに攻撃を開始した6月13日以来、紛争地域情報速報(CZIB)を発している。この中で、軍事作戦により紛争当事国のみならず近隣諸国の領空にも大きなリスクがあると指摘した。
具体的なリスクは地対空ミサイルや巡航ミサイル、弾道ミサイルなど、両国の国境を越えて発射・迎撃能力を有するものなどによるとされる。これらの使用により影響される空域全体が「誤認、誤算、迎撃手順の失敗」などに対し、脆弱だと指摘している。
このため紛争当事国に加え、イラク、ヨルダン、レバノンの空域が高リスクに晒されているとし、航空運送事業者に対し6月30日まで(27日現在)影響を受ける空域内を、いかなる飛行レベルにおいても運航しないよう勧告している。