「誤射」による撃墜リスク

 アルジャジーラは23日、イスラエルによるイラン攻撃開始以来、中東地域を運航予定だった数百便への影響をまとめている。これによると、ブリティッシュ・エアウェイズやエールフランス、KLMオランダ航空、シンガポール航空などが、ドーハ(カタール)、ドバイ(アラブ首長国連邦)など湾岸諸国のハブ空港行きの便を欠航、もしくは迂回を余儀なくされた。

 更に、23日にはカタールの米空軍基地がイランによるミサイル攻撃を受けた。米軍による核施設攻撃に対する報復と見られ、死傷者は出ていないが市民にパニックを生じさせた上、首都ドーハの国際空港と、同国や周辺のクウェート、バーレーンの空域が一時閉鎖される事態に発展した。

 カタール航空は25日までに、迂回などで影響を受けた全ての乗客およそ2万人が、別の便に振り替えられたと発表した。遅延や欠航などで長時間足止めされた大量の乗客の姿が、動画でも確認できる。

 日本時間の23日夜、ドーハに向けて出発した日本航空の便も影響を受け、翌朝羽田空港に引き返した。JALは空域制限が解除された後も安全が十分に確保されるまでとして、東京-ドーハ間の運航を見合わせている。(27日時点で7月2日まで)

 2022年から続くロシアのウクライナ侵攻により、航空各社はウクライナはもとより、ほとんどがロシアの領空を飛べない。英ガーディアン紙は、ロシアの領空で運航できる中国の航空会社との競合が不可能として、多くの航空会社が日本-英国間のルートを削減したと報じている。

 欧州とアジアの間にあるウクライナとロシアの領空で航空各社が事実上運航できない今、この地域を迂回できる中東の空域は、重要な回廊とされてきた。

 中東のルートさえ使えなくなることは、空路が益々狭まり、コストが上がることも意味する。先のCNN報道では専門家の話として、イランとイスラエル間の紛争により、ロンドン-香港間のフライト時間が2時間増えたと伝えた。

 比較的効率的な機体でも、1時間あたり7000ドルの燃料費がかかるという。また異なる空域を飛行するための料金や、遅延や欠航による損失なども指摘した。ガーディアンは乗務員の超過勤務が続けば、人員不足により欠航のリスクが生じるとも報じている。

 経済的な負担があったとしても航空会社が紛争地帯の上空を飛ばなくなるのは、当然だが乗客の安全確保が最優先だからだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は昨年末、航空安全ネットワーク (ASN)のデータを元に、最近の民間航空における死亡事故の主な原因が、誤射による撃墜と指摘している。この直前、38人が死亡したアゼルバイジャン航空機の墜落事故では、ロシア軍による誤射が疑われている。

 旅客機撃墜の主な例としては、1988年の米軍によるイラン航空機撃墜(乗客乗員290人死亡)や2014年のマレーシア航空機(同298人)、2020年のイラン革命防衛隊によるウクライナ国際航空機撃墜(同176人)などがある。この中には160人もの子供も含まれる。

2014年に撃墜されたマレーシア航空機の残骸(写真:AP/アフロ)

 このうちマレーシア航空機撃墜に関しては、事故から10年以上も経った今年5月になって、ようやく国連機関によりロシアの関与が認められた。犠牲になった人たちが戻って来る訳ではないとはいえ、先のイラン航空機とウクライナ国際航空機の誤射事件に関し、米軍は後日補償を行い、イラン革命防衛隊は責任を認めている。

 だがロシアはマレーシア航空機撃墜の責任を一貫して認めず、またオランダの裁判所が2022年に大量殺人罪で有罪判決を下したロシア人など、犯人3人もいまだに罪を償っていない。

 こうした不条理を起こさせないためにも、紛争地帯における危険回避は航空各社にとっての生命線とも言えるだろう。しかし、こうした領空を飛ぶか否かの基準は、必ずしも一律ではないという。