
トランプ政権が南アの白人(アフリカーナー)を「難民」として米国に受け入れたことが物議を醸している。トランプ大統領は南アで少数派の白人に対して「ジェノサイド」が行われていると主張するが、事実に反すると否定する南ア政権のみならず、疑問を呈する声が国際社会からも上がっている。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
5月14日、南アフリカ共和国政府は同国ラマポーザ大統領が今月19日から米国を訪問すると発表した。21日にはトランプ大統領との会談が予定されている。リリースには、ラマポーザ大統領の実務訪問が両国間の戦略的関係を「再構築する」ための基盤となる、とも記されている。
この発表の2日前、米ワシントン近郊のダレス国際空港に南アからの「難民」が到着した。フライトには米政府が費用を負担したチャーター機が用いられた。南アの首都ヨハネスブルクの空港に確認した米ニューヨーク・タイムズ紙によれば、大人と子供を含む49人がこのフライトに搭乗した(報道機関によって「難民」の数は59人ともされる)。
米国入りした南アの「難民」は全員が「アフリカーナー」と呼ばれる白人だ。およそ4世紀前、南アフリカに入植したオランダ人などの欧州人を祖先に持つ。
小さな星条旗を手にした男女や子供たちは、空港でランドー国務副長官ならびにエドガー国土安全保障省副長官直々の出迎えを受けた。
ランドー副長官は乳児なども含む「難民」らの長旅を労い、彼らが手にしていた星条旗が「自由の象徴だ」と述べた。その上で、ランドー氏は父がナチスを逃れてオーストリアから、またエドガー氏は妻が迫害を受けてイランから米国に移住したエピソードを披露した。米国で自由を得られたことの素晴らしさをアピールするという意図が透ける。
トランプ氏は、南アからの「難民」が速やかに米市民権を与えられることを約束している。ニューヨーク・タイムズが入手した米保健福祉省のメモによれば、トランプ政権は「難民」に住宅や家具、生活必需品、清掃用具、食料、「天候に適した」衣類、おむつや粉ミルク、またプリペイド携帯まで提供するという至れり尽くせりぶりである。
アフリカーナーの「難民」らは、黒人が多数派である南アの少数民族であり地元南アフリカで迫害に遭い生命の危険を感じたなどとして米国に難民申請した。トランプ氏は同日、南アにおいて、特定の人種や国民、部族、宗教などを理由に集団を破壊する行為である「ジェノサイド」が生じていると発言。「たまたま白人だった」農家が「残酷に」殺害され、その上彼らの土地が没収されているとも断じた。
南ア「難民」の窮状を救ったトランプ政権の行動は「さすがの移民大国米国」を象徴する美談のようである。
しかし、ここに一つ問題が生じる。米国に「亡命」したアフリカーナーが南アフリカにおいて、人種を理由にした「ジェノサイド」や土地の没収などに直面していないと、南アはもとよりトランプ政権以外の国際社会から繰り返し指摘されていることだ。