移民・難民に対するダブルスタンダード

 マスク氏は3月、自身の所有する衛星通信網「スターリンク」が南アで展開できないのは「自分が黒人ではないからだ」などとXに投稿。BBCの解説によれば、南アでの事業展開にはネットワークとサービスの免許取得が義務付けられているが、アパルトヘイト時代に差別を受けていた黒人による30%の株式保有が条件となっている。

 こうした措置はアパルトヘイトで確立された組織的な人種差別政策を是正するためのものだが、マスク氏および白人至上主義者らはこれを白人差別と位置付けている。なお、同じBBC報道によると、南アの通信・放送の規制機関である独立通信局は、そもそもスターリンクが免許申請を出したことが一度もないと証言している。

 トランプ氏による一連の南ア攻撃の背後には、マスク氏の意向が反映されているのではないかとの見方も多数報じられている。多様性や公平性を尊重するDEI政策を撤廃させたのも「Woke(いわゆる『意識高い系』に類似する蔑称)」を毛嫌いするマスク氏の意向を受けたものとも言われる。

 こうして、トランプ氏により大歓迎された南アからの「難民」らだが、米国に入国したある男性は、かつてのユダヤ人に対する差別的な投稿が暴露されている。すでに削除されているが、こうした投稿について男性はBBCの取材に、他者の考えをコピペしてしまったとか、治療のためのモルヒネを投与されていた、また怒りに任せて投稿してしまったという言い訳をしている。

 国土安全保障省はこの件に関する複数の報道機関からの問い合わせに対し「すべての難民申請が審査され、不正行為の申し立てには徹底的に調査の上、適切な措置を講じる」と答えた。

 人種的迫害を逃れてきたと主張する人物による他者への差別行為が適切なのかは疑問である上に、アフリカーナー「難民」らに対する審査のスピードにも驚きを禁じ得ない。

 通常、米国入りした難民の再定住には数年かかる場合もある。まして、現状トランプ政権は厳格な移民対策のもと、米国に合法的に滞在してきた人たちでさえ国外に強制送還までしている。難民に至っては、事実上ほぼ全てを入国禁止にしており、そのダブルスタンダードぶりには目を見張る。

 これに対し、南アの白人「難民」は、トランプ氏が2月初めにアフリカーナー「難民」の再定住を支援すると大統領令で述べてから数えてもわずか3カ月余りで米国への入国を果たしている。

「難民」らが米国に出国した際の様子についてBBCは、彼らが南アの空港でチャーター機に乗ることを許可されており、通常難民が迫害から逃れる光景からほど遠いという一文を添えている。

 つまり人種や政治的理由などで弾圧された人たちが、迫害する側の政権により「はい、そうですね。行ってらっしゃい」とばかりに快く送り出される光景などまず存在しない、という皮肉だ。米国に難民として到達する人たちの多くは、迫害などを逃れるため生命の危険を犯して国境を越えている。

 一連の南ア「難民」と比較して特に問題視されているのが、トランプ政権によるアフガニスタン人への一時保護資格(TPS)の取り消しだ。その数は数千人以上に上るとも言われている。