記者団の取材に応じる公明党の斉藤代表=国会(写真:共同通信社)
(尾中 香尚里:ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員)
高支持率の高市政権、だが「自民崩壊」の過程にある
2025年が間もなく終わる。政界を見渡せば良くも悪くも、誰もが「高市早苗首相誕生」に踊っている。
「日本初の女性首相!」「安倍政権の再来!」と狂喜乱舞する向きもあれば、「安倍(晋三)政権のような暗黒の時代が来る!」と恐怖を煽る向きもある。高市政権とはつまり、左右どちらであっても、振り切れた人々にとって良い「おもちゃ」なのかもしれない。
どうも筆者はこの流れに乗れない。高市政権の支持率が現状でどんなに高くとも、結局のところ2025年も、令和に入った頃から始まった自民党の崩壊過程の途上としか見えないのだ。
あえて言えば今年は、自民党の連立相手が公明党から日本維新の会に代わり、四半世紀ぶりと言える大きな政界再編が起きたが、それは自民党崩壊への流れを加速こそすれ、押し留める役割は果たさないだろう。
会談後、記者会見で握手する高市早苗首相(左)と日本維新の会の吉村洋文代表=2025年12月16日、国会(写真:共同通信社)
自民党崩壊の流れの始まりは、まさに令和の始まり、2019年秋の「桜を見る会」騒動あたりから始まったと、筆者はみている。
それまで強固な安倍政権のもと、森友・加計問題など政治のモラルの根幹を揺るがす事態もなぜかスルーされ、「安倍政権に近ければ何をやってもおとがめなし」的な無力感が社会にまん延していたが、「桜を見る会」問題が発覚した頃から、様相は変わり始めた。翌2020年の新型コロナウイルス感染症への対応に大きな批判が集まり、この流れは確かなものとなった。
そして2022年の安倍元首相銃撃事件。もちろんそれ自体は痛ましいとしか言いようがないが、この事件を機に白日のもとにさらされた自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の蜜月関係や、自民党の各派閥が政治資金パーティーの収入を「裏金」にしていた問題が国民の大きな批判にさらされた。
自民党は昨年(2024年)、それまで「党内野党」の立場にあった石破茂氏を首相に担ぐという「平時ではあり得ない」選択で危機の乗り切りを図ったが、同年秋の衆院選で、公明党も含む連立与党で過半数を割る惨敗を喫した。
首相時代の安倍氏が、国政選挙のたびに「勝敗ラインは与党で過半数」と発言して「目標が低すぎる」と揶揄されていたが、その「低すぎる」目標をあっさり下回ったのである。
そんな状況で始まった2025年。少数与党に陥った石破政権は結局、その苦境に乗じて自らを高く売りつけようとした維新や国民民主党などの中小野党に振り回され、夏の参院選は衆院選に続く惨敗に終わった。自民党は衆院に続いて参院でも少数与党となり、政権運営はさらに厳しくなった。
この結果を受けて、政治は近年になく大きく動いた。まず「石破おろしと高市政権の誕生」、そして公明党の連立離脱と維新の「連立」入りという「与野党の再編」である。高市政権が高支持率で発進したことに政界は浮き足立ち、まるで自民党の黄金時代が復活したかのような空気感さえ漂っている。
高市首相が存立危機事態をめぐる不用意な国会答弁で日中関係をガタガタにしても「質問した野党が悪い」。官邸幹部が日本の核保有に言及しても「報道したメディアが悪い」。
ひと昔前なら内閣が吹っ飛ぶような失態も、全て「他人のせい」という空気を作り出す。
記者会見する高市早苗首相=首相官邸(写真:共同通信社)
内閣支持率の高さにたじろいでいるのか、そんな政権を誰もまともに諌められない。そんな状況が生まれつつある。
