今回の衆院選では、各党がSNSやYouTubeを積極的に活用した(写真:つのだよしお/アフロ)
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 東洋大学の小笠原盛浩教授(社会学部メディアコミュニケーション学科)らが、18歳以上の男女1793人を対象に行ったオンライン調査によると、衆院選で見聞きした偽・誤情報の約8割が事実だと誤解されていた。選挙では、生成AIで作られた偽動画の拡散なども見られた。

 SNSが普及し、政治や選挙における情報空間は日々複雑なものになっている。この状況をどう考えればいいのか。『炎上で世論はつくられる 民主主義を揺るがすメカニズム』(ちくま新書)を上梓した国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授の山口真一氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──山口教授は選挙におけるSNSの使われ方に関して研究されています。今回の衆院選ではどのような動きが見られましたか?

山口真一氏(以下、山口):今回の選挙では、各政党がインターネット戦略に本格的に力を入れました。SNSや動画共有サービスの公式アカウント運用にとどまらず、オンライン広告も積極的に活用していました。

 YouTubeの関連動画の再生回数は2年前の衆院選と比べておよそ10倍に増加したとの分析もあり、ネット上での情報接触量は飛躍的に拡大しました。とりわけ、短時間で視聴できるショート動画が多く再生され、アルゴリズムによって次々と関連コンテンツが表示される構造が影響力をさらに押し上げています。

 その中で2025年の参院選と比べて決定的に異なるのが、生成AIの飛躍的な性能向上です。いまや専門的な知識がなくても、容易に偽の動画を作成できる環境が整っています。

 私はこの状況を「ディープフェイクの大衆化」と呼んでいます。街頭インタビューのような映像や実在の報道番組に似せたニュース風の動画など形式も巧妙化しています。視聴者にとっては本物と見分けがつきにくいものもあり、選挙情報の信頼性を揺るがす新たなリスクが顕在化しています。

 ネット戦略の高度化と生成AIの進化が同時に進む中、情報の量だけでなく質をどう担保するかが、これまで以上に重要な課題となっています。

──選挙期間中の関連コンテンツのマネタイズの禁止を提案されています。

山口:フェイク情報は大きな問題になっていますから制度的な対応が必要です。しかし、そこにはリスクもあります。

 アメリカではより顕著ですが、しばしばトランプ大統領と米メディアはお互いの発言が誤りであると主張し合っています。このように、何がフェイクかは立場によって不確かな場合もありますから、単純に偽情報・誤情報を放った者を罰するという制度を設けることは危険です。

 現にフェイクニュースを取り締まる法律を根拠に、政府に批判的なジャーナリストが次々と逮捕されている国や、政府のコロナ対応を批判した医師が次々と投獄されている国も見られます。そうしたさまざまな可能性を考慮した上で、私が提案するのが選挙期間中の選挙や政治関連コンテンツのマネタイズ禁止です。

 災害や選挙のような有事の場合に情報は極めて重要です。こうした有事の際にはその瞬間に正しい情報を得ることが重要で、1週間後にファクトチェックの結果が出ても間に合いません。ですから、偽情報・誤情報が出てくる要因をなるべく制限する必要があります。そこで選挙期間中に限り、政治や選挙関連のコンテンツのマネタイズを禁止にするべきだと思うのです。

 この制度の良いところは表現の自由と両立しており、政治家や政党を応援することや批判することを制限しているわけではないという点です。

 とはいえ、クリエイターたちの経済活動を一時的に制限する行為ですから慎重な議論も必要です。そもそもそうしたことが技術的に可能なのかという疑問もあります。しかし現状を考えると、そうしたことを制度化したり、プラットフォーマーに要請したりする必要があると思います。