高齢派遣労働者が収入のない年末年始を乗り切るのは大変(写真:moonmoon/イメージマート)
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(若月 澪子:フリーライター)

「れんきゅうで仕事が休みになっちゃって、3000円くらいお借り出来ませんか」(原文ママ)

 このLINEが筆者の元に届いたのは、2025年春の大型連休のことである。LINEの送り主は、東京都大田区在住のAさん(65)。筆者が高齢の派遣労働者の実態を探るために潜入取材した工場で知り合った。

 給料を週払いで受け取るその日暮らしのAさんは、連休が続くと生活費が底をつく。筆者の提案でAさんは年金受給を開始したが、彼の生活が安定することはなかった。そして生活困窮者にとってもう一つの「大型連休」である、年末年始がやってきたのだ。

◎「連休で仕事が休みになっちゃって。3000円くらい貸してもらえませんか」大型連休で干からびる派遣高齢者の日常(JBpress)

派遣高齢者のクリスマス

 都内のネオンがクリスマス一色に染まる12月の中旬の平日、筆者は高齢派遣労働者のAさんと大田区蒲田のとんかつ屋にいた。1年を振り返り、クリスマスを祝うためではない。

 Aさん宅に届いた、たまりにたまった年金事務所や区役所からの郵便を整理するためである。目の前には「年金納付額」「年金生活者支援給付金請求書」「介護保険料納入通知書」などと書かれたさまざまな書類がある。Aさんは解読不能な書類をどっさり持ってきて、筆者はその書類を一枚一枚説明していた。

「キチョーなお時間を使わせて、すいましぇん」

 Aさんはロースかつと、とんかつソースでドロドロになったキャベツを、一生懸命口の中に放り込んでいる。筆者のおごりのとんかつ定食はコーヒー付きの800円で、インフレ知らずの蒲田価格だ。

 この日のAさんは、あったかズボンを履き、スポーツブランド風のジャンバーをはおり、USAという刺繡の入ったキャップ帽と黒マスク。クリスマスだから(?)、けっこうオシャレしている。

 中卒で、知的障害者の認定を受けているAさんは、あまり漢字が読めない。だから、役所からの書類はAさんには解読不能だ。スマートフォンを持っているが、ググることもできない。

 ややこしいハガキや書類を見るにつけ、「情報弱者や高齢者にはやさしくないよな」と思わずにはいられない。Aさんのような人には「翻訳」という支援が必要である。

 長年、Aさんはこうした書類を放置していたようだ。彼の中には「漢字が読めない」劣等感と「理解できない」不安で、役所からの郵便は恐怖の対象だったのかもしれない。

 それが、今年の夏から「年金受給開始」という思わぬ「お年玉」が入り、郵便をチェックするメリットが生まれた。今、Aさんは月額10万円ほどの年金を受給し、派遣会社を通じてパソコンのメンテナンス工場で肉体労働し、家賃3万円の風呂なしアパートに一人で暮らしている。

 そして、この物価高のご時世も加わり、常にお金に困っている。