Aさんはフォークリフトのオペレーターだった(写真:Hakase/イメージマート)
(若月澪子:フリーライター)
「すいません、連休で仕事が休みになっちゃって、食事もできずに困っています。3000円くらい貸してもらえませんか」
このLINEが筆者のもとに届いたのは、2025年の「昭和の日」、4月29日のことである。
メッセージの送り主は、筆者が派遣労働の取材のために潜入した、とある倉庫で知り合った東京大田区在住のAさん(64)。10年以上、倉庫作業などの仕事で派遣社員として働いてきた男性だ。
これまでさまざまなオジサマに取材を重ねてきた筆者だったが、「金を貸してくれ」と言われたのは初めてのことだった。正直、「ヤバいことに巻き込まれるのでは……」という思いが頭をかすめる。
「給料は日払いか週払いでしかもらったことがないんです。金が足りない時は、派遣会社から前払いでもらうこともあります。やりくりが大変なんですよ。給料を月払いにしたいけど、今の状況だと全然できない」
生涯独身のAさんには貯金もなく、その日暮らしの生活をいまだに送っている。働けなくなると、収入が途絶えてしまうのだ。暮らしているのは家賃3万円のアパート。トイレは共同。風呂はなく、銭湯かコインシャワーで済ませている。
Aさんがお金を増やす方法といえば、平和島のボートレースである。筆者はAさんに誘われて、平和島競艇場にご一緒させていただいたこともある。
「若月さんを勝たせてやるから!」
というAさんの指示通りに購入したレースはことごとくハズレ。Aさぁん!これじゃあ、お金は貯まらないよ。
「派遣先から今年の大型連休は5月6日までずっと休みって言われたんですよ。派遣会社に聞いても紹介できる仕事は建設現場しかないと言われて。建設現場はオレの年では無理です」
Aさんの仕事が再開されるのは連休明けの7日。それまでは現金が入らない。現在の所持金はわずか500円。
Aさんは、どこからどう見ても貧困状態だ。しかも、この物価高のご時世である。Aさんのような高齢者が休みになると仕事がなくなり、ごはんも食べられないなんて、世の中、どうかしている。
ただ、「『お金を貸して』と言う人には、あまり関わらないほうがいい」と多くの日本人は思うだろう。
「すいません、お金は貸せません」
とりあえずキッパリと断りのLINEをした。そのうえでAさんに「年金の受給手続きをしたらどうか」と提案する。年金事務所の場所と連絡先を教えたところ、Aさんは妙に怯えていた。
「オレは年金を払っていない時期もあるし、ちゃんともらえるのかな」
しかし、いろいろ聞くと、Aさんは50年もの間、働き続けているのだ。こういう人が働いて年金制度を支えてきたはずなのに、今度は年金に支えてもらえないのだとしたら、おかしいではないか。