最終的にAさんが手に入れた年金受給額
さらに、65歳から受給できる老齢基礎年金と老齢厚生年金の額も提示された。それぞれが月額5万円ほどで、合計月額は10万円ほどになる。
「いやあ、こんなにもらえるとは思わなかった」
女性が提示した書類には、Aさんが正社員として勤めていた精肉の卸会社と、派遣会社の名前が確かに刻まれていた。何十年も前に辞めた会社時代の厚生年金なんて、膨大なデータの彼方で「消えた年金」になっているのではないかと不安になっていたAさんは、ちょっとホッとしている。
「でもさ、働きすぎると年金を減らされちゃうとか聞くけど」
Aさんはまたおどおどと言った。
「月に40万円以上稼がなければ、減らされることはありません!」
初老の職員は全力で答えた。そりゃあそうだ。Aさんの年金額では、働き続けなければ年金だけで生活するのは厳しいだろう。
さらに職員の女性は、70歳まで働けば、厚生年金を受給しながら少しだけ年金額も増やせること、途中で仕事を辞めても失業給付が受けられることも説明してくれた。
しかし、年金の申請をしたところで、Aさんの口座にお金が振り込まれるのは、3カ月も先の8月以降だ。先は見えてきたが、当座をしのぐことはできない。Aさんには、まず今日を生き延びる金が必要なのだ。
Aさんにメシを食わせてくれる制度が、何かないものだろうか。(後編に続く)
【後編】明日メシを食うカネがない!金欠派遣高齢者が年金事務所や社会福祉協議会、区役所をはしごしてゲットしたもの
若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。