
(若月澪子:フリーライター)
大型連休の初めに届いた1本のLINE。それは倉庫の派遣の仕事をするAさん(64)からの「連休で仕事が休みになっちゃって、食事もできずに困っています。3000円くらい貸してもらえませんか」というメッセージだった。
【前編】「連休で仕事が休みになっちゃって。3000円くらい貸してもらえませんか」、大型連休で干からびる派遣高齢者の日常
貯金もないその日暮らしのAさんの所持金は500円。とりあえず年金事務所に駆け込んで受給申請をしたものの、お金が振り込まれるのは3カ月先。食料もなく、レモンティーを飲んで生き延びていたというAさんを救済する方法はないのだろうか。
マイナーな「生活困窮者自立支援制度」
生活困窮者を救済する公的支援で最もメジャーなのが「生活保護」である。ただ、今の日本にはその前段階のセーフティーネットとして「生活困窮者自立支援制度」という制度がある。
2015年に始まったこの制度は今年でちょうど10年が経つが、非常にマイナーな存在だ。ただ、その内容は案外きめ細かく、「家賃の支援」「就労支援」「家計管理のアドバイス」「困窮世帯の子どもの学習支援」など、生活が困窮する人のニーズに合わせて、さまざまな支援をカスタマイズして提供してくれる。
この制度のことを思い出した筆者は「生活困窮者自立支援制度」の窓口を訪ねてみないかとAさんに提案した。
「お金もらえるの?」
Aさんは現金を期待している。ただ、Aさんにはいずれ年金の受給が始まるし、仕事には就けているから、相談に行ったところでたらい回しにあうか、慰められて終わりかもしれない。
いずれにせよ、今夜、食べるものがないAさんが連休を乗り越えるために、とりあえず空振りでも行ってみようということになった。
「生活困窮者自立支援制度 大田区」でググると、JR大森駅近くにある「大田区生活再建・就労サポートセンター JOBOTA(ジョボタ)」という施設が出てきた。貸ビルの6階にあるようだ。マイナーな制度は、場所も目立たないところにある。
受付に入ると、人が殺到しているような雰囲気はない。「相談員」と書かれたネームストラップを首から下げた善良そうな中高年の男性が、すぐにパーティションで仕切られた個別ブースに案内してくれた。隣のブースでは、20代くらいの男性が、別の相談員に既に何かを相談している。
相談員の男性は、名前や住所、食費や光熱費などを細かく記入する紙を出し、Aさんから現在の収入と支出、家族状況など細かい現況を聞き出した。
Aさんの収入は手取り月13万円ほどで、家賃・食費・光熱費・スマホ代などにかかる費用を計算すると、生活はギリギリである。家族は80代の母親と姉がいるが、ほとんど連絡を取っていない。一通り聞き終わると、相談員は優しく言った。