「昼に食ったラーメン、うまかったですよ。生き返りましたよ」

「なんかノドが乾いちゃったな~」

 区役所を出たらAさんにおねだりされたので、110円のフルーツ牛乳をローソンで購入し、二人で乾杯した。とりあえず、連休が終わるまでAさんが生き延びられそうでよかった。

「今日、昼に食ったラーメン、うまかったですよ。生き返りましたよ」

 Aさんがうれしそうに言ってくれた。うぬぼれかもしれないが、もしかしたらこの日、Aさんにとって一番の収穫は一緒にラーメンを食べたことだったのかもしれない。

 よく考えてみたら、こんな風に半日かけて役所を駆けずり回らなくても、かつては家族や友人が周りにいるだけで、私たちは生きることができたはずだ。それがいつの間にか、自分の責任で生き延びなくてはならない孤独な社会になってしまった。

「いずれうまいものをご馳走しますよ。中華街にうまい店があるんで、そこに行きましょう」

 Aさんが言ってくれた。

 既に紹介した「生活困窮者自立支援制度」には、家計相談という支援もある。収入や支出の内容を整理し、家計を自分で管理できるアドバイスをしてくれるという。お金を失わないためには、お金の使い方も大事だからだ。もちろん相談は無料で受けられる。

 年金が振り込まれる8月になる前に、Aさんにはその支援も受けてもらったほうがいいかもしれない。そんなことを考えながら、この日は蒲田行進曲のチャイムが流れるJR蒲田駅を後にしたのだった。

若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。