東京電力福島第1原発事故を巡る株主代表訴訟の判決後、東京高裁前で不当判決を訴える原告ら=昨年6月6日(写真:共同通信社)
東京電力福島第一原発を襲った大津波は予見できたのか。各地で続く東電原発事故をめぐる裁判で、大きな争点だ。
東電の旧経営陣の責任を追及した株主代表訴訟では、東京高裁(木納敏和裁判長)は2025年6月、旧経営陣に約13兆円の賠償を命じた一審判決を取り消し、株主側の請求を棄却した。津波は予見できなかったというのだ。
この高裁判決について、気象庁の元地震火山部長・濱田信生さんは「科学、学術の議論の場である学会などには、とても恥ずかしくて出せないような主張が、司法の場ではまかり通っている。科学にちゃんと向き合ってない。ガリレオの宗教裁判をやっている裁判官とレベルはほとんど同じだ」と批判する意見書をまとめた。原告の株主側が上告受理申立書とあわせて最高裁に10月、提出した*1。
濱田さんら専門家の意見書や、上告受理申立書の説明をする東電株主代表訴訟の原告と弁護団=2025年11月、東京・霞が関の司法記者クラブで
教会の権威に従わず地動説を唱えたガリレオは、17世紀に宗教裁判で有罪とされ、その科学的な誤りを教会が認めたのは20世紀も終わりになってからだ。現代の原発裁判は、どこに問題があるのだろうか。意見書をもとに濱田さんに尋ねてみた。
*1 http://tepcodaihyososho.blog.fc2.com/blog-entry-453.html
政府地震本部の長期評価は信頼できないのか
予見できたかどうかで焦点となったのは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が事故の9年前、2002年に発表した、東北地方太平洋側で起きる地震の予測(長期評価)についてだ*2。この予測をもとにすれば、福島第一原発には15.7mの津波が襲来することが計算できた。敷地の高さ10mを大きく超える。
地震本部が2002年に発表した長期評価の地図。「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」と名付けた細長い帯状の領域のどこでも、高い津波を引き起こすマグニチュード8.2程度の地震(津波地震)が発生する可能性があると予測していた
しかしこの長期評価について、東京高裁は「被告らに福島第一原発の運転停止(および運転停止期間中の津波対策工事)を指示させることを法的に義務付ける程度に具体的な本件予見可能性があったことを認める根拠としては、必ずしも十分ではない」として控訴を棄却した。
一審の東京地裁判決(朝倉佳秀裁判長、2022年7月)は「原子力発電所を設置、運転する会社の取締役において、当該知見に基づく津波対策を講ずることを義務付けられるものであった」と判断していたので、高裁は長期評価をずいぶん軽視したことになる。「長期評価には、こんな異論があった」など事細かに列挙した東電の主張を、高裁が受け入れた結果だった。
*2 正式な名称は「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」=2002年7月(https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/sanriku_boso.pdf)
東北地方の太平洋沖約200キロを南北に貫く、長さ約800キロ、深いところで約8000メートルある日本海溝。ここで太平洋プレートが一年間に約8センチの速さで東北地方の下に沈みこみ、それが引き起こすひずみが地震を引き起こす。東北地方太平洋沖地震(東日本大震災、2011年)もその一つ。2002年の長期評価では「三陸沖北部から房総沖の海溝寄り」と名付けた細長い帯状の領域(地図)のどこでも、高い津波を引き起こすマグニチュード8.2程度の地震(津波地震)が発生する可能性があると予測していた。
