(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 2011年3月11日の東日本大震災以降、震度6以上の地震は30件以上に及ぶ。世界の地震の約2割は日本周辺で発生していると言われ、近い将来の発生の切迫性が指摘されている南海トラフ、首都直下なども頻繁にメディアで報じられている。原発と地震についての取材を続け、東電福島原発事故の国会事故調査委員会で協力調査員として津波分野の調査も担当した科学ジャーナリスト添田孝史氏による、災害大国日本の最新情報を伝える新連載。(JBpress編集部)

 JR東海がリニア中央新幹線の建設を進めている。大井川の流量減少を巡る静岡県知事とJR東海の攻防が注目されているが、大地震に本当に耐えられるか、という疑念も払拭されていない。

「リニア中央新幹線は、いずれ起こるであろう南海トラフ巨大地震に対して脆弱であるのに、世の中でほとんど認識されていないことを非常に憂慮している」と石橋克彦・神戸大名誉教授(地震学)は話す。石橋氏は、東京電力福島第一原発事故の前に、原発が地震に弱いことを警告していた。リニアにも、同じ危惧を抱いていると言うのだ。

「リニア運行中に南海トラフ地震が発生すれば被害が同時多発する」

 石橋氏は、10月16日にリニアに関して初めて一般向けに講演し*1、こう指摘した。

「南海トラフ巨大地震はリニア供用中あるいは建設中にはほぼ必ず起こると想定すべきだ。運行中に発生すれば、全路線で多種多様な大被害〜軽微被害が同時多発する」

 石橋氏の懸念する点を見ていこう。南海トラフは、日本列島が載っている大陸のプレートの下に、フィリピン海プレートが年間数cmずつ沈みこんでいるプレート境界だ。約100〜200年間隔でM8級大地震を繰り返してきており、前回が1940年代に発生したので、そろそろ次が起きてもおかしくない、と予測されている*2

*1 高木基金「市民科学」公開フォーラム リニア新幹線・外環道大深度地下トンネル問題を深掘りする(http://www.takagifund.org/activity/2022/20221016forum.html
石橋克彦『リニア新幹線と南海トラフ巨大地震―「超広域大震災」にどう備えるか』(集英社新書)

*2 地震調査研究推進本部 南海トラフの地震活動の長期評価(第二版)について 2013年5月24日(https://www.jishin.go.jp/main/chousa/kaikou_pdf/nankai_2.pdf

 南海トラフ地震の30年以内の発生確率を、地震本部は「70〜80%」と発表しているが、その算出根拠の信憑性に疑いがあるため、最近の研究ではもう少し低いとも指摘されている。
<南海トラフ地震 30年以内の発生確率「70〜80%」に疑義 備えの必要性変わらないけど…再検討不可欠>(東京新聞 2022年9月11日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/201430/