「大自然は常に新たな顔を見せる」と石橋氏は言う。

 現代の文明が経験した大地震は、まだわずかしかない。複雑で脆弱な地層に掘られた長大トンネルを時速500kmで走行中に、最悪の場合はM9にも達する地震が直下で発生し、数分以上揺さぶられる。そんな経験は、まだ無いのである。

 第一首都圏隧道(長さ37km)、第一中京圏隧道(長さ34km)など、都市部の軟弱地盤の大深度地下を通るリニアのトンネルも、東京外郭環状道路工事の陥没事故を見ると、技術者たちがどれだけ地下の構造や揺れ方を把握しているのか、不安が残る。

リスクを見抜く石橋氏の力

 鉄道に詳しいわけではない、一地震学者の杞憂であって欲しい。それで片付けたいのだが、石橋氏は、これまでも震災リスクの有様を的中させてきた実績がある。

 1994年の著書『大地動乱の時代』(岩波新書)では、都市直下地震による被害を予測していた。阪神・淡路大震災の5か月前だ。

 都市化が進んでいない時代の関東大震災(1923年)などをもとにした耐震技術には盲点があることを指摘し、現代の都市について「無数の市民をいやおうなく巻き込んで大地震による耐震テストを待っている、壮大な実験場というべきである」と書いていた。

 そのころ耐震工学分野の専門家は、「日本の工学レベルは高いので構造物は壊れない」と豪語していた。ところが阪神・淡路大震災では、最新の基準で造られていた高速道路は落橋し、新幹線の橋脚やビルも大きな被害を受けた。

 1997年には「原発震災 破滅を避けるために」という論文*5を発表し、原発は最新の地震学の知識を反映しておらず、設計で想定していた以上の地震に襲われて事故をおこす可能性があると指摘していた。

 この石橋論文について、斑目春樹・東大教授(原発事故時の原子力安全委員長)は「石橋氏の専門分野から外れており、論拠がはっきりしない」「原発は2重3重の安全対策がなされており、安全にかつ問題なく停止させることができるよう設計されている」「石橋氏は東海地震については著名な方のようであるが、原子力学会、特に原子力工学の分野では、聞いたことがない人である」と政府や静岡県に見解を示し、相手にする必要はないと説いていた*6

 原子力工学のシロウトである石橋氏と、その分野の権威だった斑目氏、どちらの予測が正しかったかは14年後に明らかになった。福島第一原発1号機が水素爆発したニュース映像を首相官邸で見せられ、斑目氏は「あちゃー」と両手で頭を抱えたまま、しばらく動かなかったと伝えられている。

*5 石橋克彦「原発震災 破滅を避けるために」(科学 1997年10月 p.720-724)
https://www.iwanami.co.jp/kagaku/K_Ishibashi_Kagaku199710.pdf

*6 資源エネルギー庁原子力発電安全企画審査課長〈雑誌「科学」10月号に掲載された石橋克彦氏の論文に対する見解について(回答)1997年12月24日〉(科学2011年7月号p.716−722)