昨年12月3日、中国南西部の昆明とビエンチャンを結ぶ高速鉄道「中国ラオス鉄道」の開通式が行われた(写真:ロイター/アフロ)

(塚田 俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)

 ソビエト連邦時代、KGBの一幹部*1であったプーチンは、その後、国民的人気を誇るロシアの大統領となった。そのプーチンは現在、彼自身の最後の野望を実現すべく、ウクライナ侵攻という途轍もない実験を開始した。陸海空からの、容赦ない、無差別な軍事攻撃は国際社会から轟々たる非難を招き、プーチンは今や国際社会から完全に孤立してしまった。

 これが東洋の、権力闘争に熟達した指導者であれば、同じ夢を追うにしても、もっと巧みにことを進めていたであろう。それは、数千年前の昔からその国で採られてきた兵法に従い、深く、静かに潜行し、時が来れば立ち上がるとする戦法だ。

 これはプーチンが採ってきたような荒々しく、むき出しの攻撃とは対照的に、相手国を必要以上に警戒させることなく、しかもより深く侵入することを可能とする“トロイの木馬”方式である。

 そして、この東洋の指導者は、すでにシルクロードからの風を受けて、自らの夢の実現に挑み始めている。ただ、その全貌は、ときに別の衣をまとっていることもあり、外からは見え難いが、開始から数年を経過した今、その真の姿が明らかになりつつある。そこで本稿では、この問題を取り上げ、必要な分析を試みたい。

*1 Lieutenant colonel. Lieutenant colonel は米国等ではthree star officer であるが、ロシアではtwo star officer

欧米諸国による一帯一路への対抗策の策定

 言うまでもなく、ここに言う夢とは、習近平国家主席が手掛ける一帯一路構想であるが、欧米諸国は、同構想の途上国への急速な浸透を懸念して昨年相次いで一帯一路に対する対抗策を打ち出した。その先駆けとなったのは、米国の「Build-Back-Better World」構想で、バイデン大統領は、昨年6月12日、G7の場でこの構想を発表した。次いで、英国は11月1日に「Clean Green Initiative」を、そしてEUは12月1日に「Global Gateway」を発表した。

 これらの対抗策は、表現にこそ多少の違いはあれ、その狙いとするところは皆同じで、(i)普遍的価値の追求と(ii)高品質で透明なインフラの整備を挙げている。バイデン大統領は、これらのイニシアティブは、G7諸国が、強調して策定したものであるとして、その意義を強調した。