一帯一路が内包する問題点

 このように、一帯一路下で進められるインフラ開発は、途上国における企業主体の商業的活動であるので、どうしても儲け主義に走りがちであり、このため、現地で種々の問題を引き起こすことになる。その主な問題点を列記すると以下の通りである。

【高コスト】:一般に中国企業が提案するプロジェクトは低コストであると解されているが、実は逆で、高コストのプロジェクトが多い。

 例えばケニアの鉄道プロジェクトは、通常価格よりも3倍も高いといわれており、モルディブの首都マリに建設された病院は、通常価格の2.6倍であったといわれている。これ程大幅な価格アップではないとしても、3~4割高めのプロジェクトはざらにある。例えば、マレーシアの東海岸鉄道プロジェクトは、いったんは前政権の下で調印されたものの、新しく選ばれたマハティール首相は、プロジェクト・コストが高すぎるとし、再交渉に持ち込み、当初の見積価格を3割3分引き下げることに成功した。パキスタンでも、政府はML-1鉄道のコスト見積もりは高すぎるとして、再交渉に持ち込み、当初見積価格を2割6分引き下げた。

 どうして、一帯一路の下では高めのコスト設定が可能なのかというと、それは中国からのローンはタイド(ひも付き)であり、また通常の経済協力案件のように国際競争入札に掛ける必要がないので、中国企業は他社の応札価格を気にすることなく、必要と見込まれる費用はすべて盛り込んで請負価格を設定することができるからである。

 さらに、施工段階に入ってからも、請負企業は、正当な理由がありさえすれば、当初の契約価格の更改を求めることができ、このような形でのコストアップも珍しくない。

【中国基準の押し付け】:中国の国営企業が一帯一路の下で受注する請負契約は、一種の「Turn-key契約」(設計から建設及び試運転までの全業務を単一のコントラクターが一括して請け負い、キーを回しさえすれば稼働できる状態で発注者に引き渡す契約)、あるいは「Engineering, Procurement, and Construction契約」(設計エンジニアリング、調達、建設を一括して請負う契約)である。その下ではコントラクターは、基本設計から詳細設計、建設、引き渡しに至るまですべて自分でコントロールできるので、請負企業は、自国で慣れ親しんだやり方で工事を進め、自国で製造される資機材をそのまま現地に持ち込んで、迅速に建設できるように詳細設計を書き上げることができる。

 これが通常の経済協力案件であれば、先ずコンサルタントが選定され、そこが基本設計、予備設計等を実施し、プロジェクトの詳細が決まると、建設業者・コントラクターが別途雇用され、コンサルタントが先に準備した予備設計に基づき、工事を実施するとする二段階方式が採られる。だが一帯一路の下では、中国の国営企業がこの両方の段階を一括して引き受け、プロジェクトの発掘から設計、建設、引き渡しまで一気通貫で行うので、自由度が高い。このため、プロジェクトの迅速なデリバリーは可能となるが、工事の施工は、事業者寄りの、効率一点張りのものとなり、途上国側の希望は反映されないものになりがちである。

 実際、一帯一路下でのプロジェクトは、そのほとんどすべてが中国の基準に従って設計されており、そこで使われる資機材もほとんど中国製である。

 例えば、インドネシアのバンドン・ジャカルタ間の高速鉄道プロジェクトでは、高速鉄道車両は勿論、通信システムからレールに至るまで、すべて中国で製造され、それがインドネシアに運ばれ、現地で組み立てられる形を取った。調達価格も比較的自由に設定できるので、そこに、不透明な費用(tea moneyやpalm greasing)も潜り込ませることもでき、それが後々プロジェクトの“円滑な実施”に役立つことがある。