昨年11月、北京で開かれた「一帯一路」建設座談会で演説する習近平主席(写真:新華社/アフロ)

(塚田俊三:立命館アジア太平洋大学客員教授)

 いま世界には、並外れて強大な権限を有する二人の国家指導者がいる。一人は西洋に、もう一人は東洋にいるが、両者に共通するのは、いずれも壮大な夢を持っていることだ。前者はかつての帝国の、後者はかつての民族の再興を追求している。

 ただ似たような夢でも、その実現の手法は両者の間で大きく異なる。前者は、その腕力にものを言わせ、降伏を迫り、従わなければ撃つとするものであり、もう一つは、深く、静かに潜航し、時が来れば立ち上がるとする“トロイの木馬”方式である。

 前者のやり方は、あまりにも乱暴で赤裸々なことから、世の強い批判を招いたが、後者の進め方は別の衣を纏っていることもあり、誰からも気づかれることなく、深く相手国の中枢に潜入し、時が来ればその真の姿を現す。

 明らかにここで言わんとしているのは、前者がロシアのプーチン大統領によるウクライナ戦争であり、後者は中国の習近平国家主席が進める一帯一路である。前者は現在進行形であるのでここでは取り上げないが、後者はすでに本原稿の前編で論じ始めたところであり、これを踏まえ本稿ではその議論をさらに進めたい。

*前編記事はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69646

一帯一路が孕む地政学的リスク

 一帯一路の地政学的意味合いは、その下で進められている港湾開発の分野で、顕著に現れているので、まずこの分野をとりあげ、その狙いがどこにあるかを探りたい。一帯一路の下で進められる港湾開発は、一見すると途上国側の必要に応じ整備されたものと映るが、実はその多くは、中国の軍事上の必要に応じて選ばれれたものである。 これに該当する港湾は、“アフリカの角”に設置されたジブチ港、パキスタンのグワダール港、スリランカのハンバントータ港、ミャンマーのキャウクピュ港、カンボジアのコー・コン港である。

2010年5月3日、補給のためジブチに寄港した中国海軍の護衛艦隊。その後、中国はジブチ政府と交渉し、20217年、ジブチに正式に人民解放軍の保障基地を建設した(写真:新華社/アフロ)

 これらの港湾はいずれも国際海運上の「choke points」に位置し、具体的には、中国南部の港湾とアフリカの先端とを結ぶシーレーン、いわゆるString of pearlsに沿って建設されている。これらの港湾は表向き商業港であるとされるが、それは必要に応じ海軍基地に転用できる軍事民事併用港である。

 中国は、これらの港湾の運営を全面的に相手国の港湾当局に任せることはせず、必要な時にはいつでも軍事港として使えるように中国の国営企業に運営させている。

 具体的には、グワダール港はChina Overseas Port Holdings(COPH) が港湾当局との間で40年リース契約を結んで運用しており、ハンバントータ港についても、COPHが同港湾の70%を所有するとともに港湾当局との間で99年リース契約を結んでいる。キャウクピュ港の場合は、中信資本(CITIC)が同港湾の70%を所有し、港湾当局との間で50年間のリース契約を結んでおり、コー・コン港の場合は、中国企業が出資して設置されたUDGが港湾の70%を所有し、港湾当局と99年間のリース契約を結んでいる。ジブチ港に至っては、中国との安全保障防衛条約に基づき設置されており、中国軍が所有し、中国海軍が運営している。

中国の支援で建設されたパキスタンのグワダール港(写真:新華社/アフロ)