
1.トランプ政権の特徴
トランプ政権の常軌を逸した政策の発表と撤回の繰り返しにより、世界中が混乱に巻き込まれている。
国家の政策運営は、基本理念と長期展望に基づき、国内外における国家の信用を傷つけないよう事前に十分検討し、その効果を見極めたうえで決定・実施するのが当然の前提である。
しかし、トランプ政権の政策運営は事前に十分な検討をせず、思い付きで実施し、副作用が大きいと撤回することを繰り返している。
ドナルド・トランプ大統領がそういう人物であることは元々知られており、専門家、有識者もある程度の混乱は覚悟していた。
しかし、ここまで無節操な行動に出ることはさすがに誰も予想できていなかった。
トランプ政権の政策決定の特徴について、米国や欧州の多くの専門家、有識者は以下のように指摘している。
第1に、具体的施策の検討段階で国家の政策運営に関する基本的な知見や豊富な経験を持つ専門家が加わっていないことである。
国家運営と中堅・中小の民間企業の経営は大きく異なる。
トランプ大統領が経営していたのは中堅中小企業であり、特定の信頼できる企業の顧客と長期的にビジネスを継続した経験は乏しい。
このため、その場限りの交渉経験は豊富でブラフを交えた交渉は得意でも、長期的な信頼関係をベースとした安定的なビジネスのやり方には慣れていない。
特に米国政府の場合、一つひとつの政策が国内のみならず世界に対して大きな影響を与える。
副作用が生じてから撤回しても元の状況には戻らず、米国および世界中の企業経営や金融市場等に深刻な悪影響を及ぼす。
トランプ大統領はこの点が理解できていない。
第2に、閣僚級の人々は全員がトランプ大統領に対して忠実なイエスマンであることである。
このため、トランプ大統領の思い付きに基づく政策実行に対して、事前に一定の副作用が予測できていても勇気をもって自発的に諫言して修正しようとはしない。
トランプ大統領は、政策判断においてインフレ、株式・債券市場、全米各地の支持層の評価を重視していると言われている。
その一方、民主主義体制の信頼度、世界秩序の安定、国家の威信や信頼といった目に見えない重要な価値を理解していないように見える。
これらの重要な価値を築くまでには英知に支えられた政策実践を長期的に積み重ねる努力が必要である。
しかし、いったん重要な価値が破壊されると、その回復には10年、20年という長い時間を要する。