
1.沿海部から内陸部への若手社会人移動
北京、上海、広州など沿海部主要都市の消費が停滞している。
一方、武漢、成都などの内陸部主要都市では消費が相対的に高い伸びを維持している。
筆者が定期的に訪問している北京、上海、広州の大型ショッピングセンターを見ると、最近は恐ろしくなるほど買い物をしている人が少ない。
フロアを見渡す限り店員の数の方がお客の数より多いといった光景を頻繁に目にする。
一方、内陸部の成都、武漢では巨大なショッピングモールが賑わっていることが多い。
とくに週末の差が大きい。
北京や上海ではショッピングセンター内のレストランに行列ができる店は多くないが、武漢や成都では多くの店で行列ができており、レストランのフロアには人があふれている。
家族連れの客が少ない沿海部とは対照的に、内陸部では家族連れが中心であり、客層に大きな違いがある。
2024年1~11月累計の消費財販売額の前年比の伸び率を比較してもその違いは明らかである。
沿海部では北京市-2.8%、上海市-3.1%、広州市+0.3%、深圳市+1.5%であるのに対して、内陸部は武漢市+5.3%、成都市+2.9%、重慶市3.8%と、どの都市も沿海部を上回っている。
この間、2023年末の常住人口の増加率を5年前の2018年との比較で見ると、沿海部の北京市+0.6%、上海市+0.5%、広州市+7.2%、深圳市+6.8%に対して、内陸部は武漢市+31.3%、成都市+13.5%、重慶市+8.7%とやはり内陸部の伸びが高い。
これは20~30代の若手社会人が沿海部から内陸部に職場を移していることが影響している。これにより大規模な人口移動が生じている。
こうした人口移動の主因は、沿海部の住居費、生活費が高騰し、20~30代の若手社会人にとって、経済的な生活条件が厳しすぎることにあると考えられる。
こうした年齢層の若手社会人は子育ての年齢層でもあるため、生活費の高騰は一段と重くのしかかる。
このため、若手世代を中心に沿海部から内陸部への労働力人口シフトが生じており、これが常住人口の伸び率の差に表れている。
若手世代は中国の消費の主力となっていることから、この世代が減少する沿海部主要都市における消費押し下げの影響は大きい。
中国企業の工場も沿海部から内陸部へとシフトしており、これが若手世代の人口移動を加速している。
例えば、四川省にはBOE(京東方科技集団:PC、スマホ、テレビ等向けディスプレイ)、CATL(寧徳時代新能源科技:電池)、BYD(比亜迪集団:電気自動車)など、世界シェアトップ企業の大規模工場が集中するようになっている。
その背景は、第1に、人件費、不動産価格、物流コスト等沿海部の生産コストの上昇。
第2に、工場建設に適した立地条件の工場用地の不足や環境規制等沿海部の制約条件の増大。
第3に、内陸部地方政府による積極的な企業誘致策などである。
これらの要因は将来も変わらないことが予想されるため、中国企業の内陸部へのシフトは今後も続くことが予想されている。