4.ロビー活動の重要性
日本企業がこのような状況に置かれている場合、内陸部の市場開拓のために活用すべきはロビー活動である。
合弁あるいは提携先を見つけたい場合、日本企業の進出先地域の地方政府に相談したとしても、地方政府の管轄地域内の情報に限られるため、選択肢が限られる。
中国全土の中で自社製品に適した合弁・提携先企業を探すには中央政府関係部門に対する政府渉外を通じた情報収集が重要である。
ただし、地方政府でも広い人脈をもつ人物がいれば、強力な支援を得られるケースもある。
中国政府も優良な外資企業の対中投資を促進したいため、信頼できる提携先中国企業を紹介し、外資企業の合弁・提携意欲を高めるインセンティブがある。
ロビー活動を展開する上で政府関係部門との人脈構築、意見交換を順調に拡大するには政府渉外の豊富な経験が必要である。
社内に優秀な中国人を抱えていても、その人物が政府渉外に強いケースは稀である。
このため外部のロビー活動の専門家に依頼するのが確実である。
ロビー活動を行う専門家はロビイストと呼ばれる。彼らは政府から高い信頼を得ているのみならず、多くの政府関係部門との人脈を継続的に維持していることが望ましい。
企業が直面する問題は多様であり、内陸部の市場開拓はその中の一つである。政府のどの部門に接触して相談するかは案件によって異なる。
限られた分野の案件しか取り扱えない場合には、政府渉外において多くの経験を積むことができないため、ロビイストとしての能力を高めることが難しい。
信頼できるロビイストの数は限られている。当然委託費用はある程度かさまざるを得ない。
米国でのロビー費用は年間数億から数十億円かかると報じられている。それだけのコストを負担しても期待する結果を得られないこともある。
しかし、だからと言ってコストを削減するために短期的なロビー活動を散発的に利用していると、政府からも信用されないため、ロビー活動の効果は低下する。
信頼できるロビイストに委託し、長期的に腰を据えて政府関係部門との良好な関係を構築する努力が重要である。
日本企業は1990年代半ば以降、官僚と民間企業の接触に関する規制が大幅に厳格化されたことから日本国内に政府渉外の習慣がほぼなくなってしまった。
このため、日本企業全体においてロビー活動の重要性に対する認識が低下している。
しかし、日本以外の米国、欧州、中国、韓国等他の主要国ではロビー活動の重要性は認識されている。
中国の内陸部への進出促進はもちろん、その他の中国およびグローバルビジネス展開においてもロビー活動は重要である。
そのための必要なコストを惜しむと合弁・提携先の選択ミス、政府の政策意図の把握不足などの問題が生じ、結果的に大きな損失を招く。
情報収集や政府渉外には必要なコストを惜しまず対応することが日本企業の今後のグローバル展開において重要な課題である。