台湾軍が公開した、米国から購入した「エイブラムス」戦車の射撃訓練(2025年6月10日、写真:ロイター/アフロ)
高市早苗首相による存立危機事態関連発言への中国側の反発が続く中、2月24日、中国商務省は、日本の20企業・団体を「軍民両用製品」の輸出規制対象に指定したと発表した。
中国のこのような激しい反応は、習近平主席の台湾併合への思いが非常に強いがゆえの、日本に対する政治的牽制であると受け止めるべきであろう。
その一方で1月下旬には、中国人民解放軍トップの張又侠・中央軍事委員会副主席と、劉振立・連合参謀部参謀長が失脚したと伝えられ、中国の台湾侵攻能力は低下しているとの分析も散見される。
日本国民としては、今後の台湾有事の可能性と、その日本への影響をどのように捉えればよいのだろうか。
そのような中、中曽根平和研究所のホームページで、『台湾有事抑止のための対応要領及び多国間抑止態勢の構築 ―不可欠なハイブリッド戦対処』との報告書が公開された。
これは筆者も関与している同研究所海洋安全保障研究委員会が行った、中国による台湾強制統一のためのハイブリッド戦に関する3年間の研究の成果をまとめたものである。
同報告書は、中国が今後、台湾を併合しようとする上で軍事と非軍事の各種手段を複合的に用いつつも、着上陸を伴う本格武力侵攻に至らずに強制的統一を図るハイブリッド戦の手法を採る可能性があり、日本も既にその標的になっていると指摘している。
以下、同報告書の内容に沿って、そのようなハイブリッド戦の概要を見ていきたいと思う。
本格武力侵攻に至らないハイブリッド戦とは?
ハイブリッド戦という用語は、学術的にも政策的にも定義が確立されていないため、それぞれの場面で様々に用いられる。
従来型の軍事力と、それ以外の非軍事を含めた様々な手段を併用するという意味で「ハイブリッド」だという点に関しては、大体認識は一致してはいる。
論者によって異なるのは、軍事力を大規模に使用する戦争において他の手段が併用されるというイメージなのか、大規模な本格武力侵攻に至らない中で様々な軍事・非軍事の手段を複合的に使用して目的を達成するというイメージなのかという点だろう。
今後の世界を考えていく際に、どちらのイメージのハイブリッド戦も同じように問題ではあるが、ここでは特に、後者の大規模な本格武力侵攻に至らないハイブリッド戦に焦点を当てて考えていく。
台湾を併合しようとする中国にとって、望ましいのは自国のコストや被害を最小限に抑えられる本格武力侵攻未満のハイブリッド戦であることから、まずはそれを追求してくると考えられるからである。
もちろん、それではうまくいかないと判断した中国が、台湾への大規模な本格武力侵攻に踏み切ることにも警戒は必要であり、それを抑止することも重要であろう。
しかし台湾自身としても、台湾を支援する日本のような関係国にとっても、本格武力侵攻の阻止のみならず、中国による非民主的な強制統一を許さないこと自体が重要なのである。
それでは、その際に使用される本格武力侵攻未満の軍事・非軍事の手段とは、どのようなものなのだろうか。
北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)ならびにその構成諸国によって設立された欧州ハイブリッド脅威対策センターは、今までに世界で使用されたハイブリッド脅威の事例から、使用される工作手段を分類している。
それは、インフラ、経済、サイバー、軍事、文化、社会、行政、法律、インテリジェンス、外交、政治、インフォメーション、技術という13の分野にまたがる。
これらの分野における各種の工作手段は相互に関連しており、目的達成のために複合的に組み合わせて用いられる。
例えば、軍事演習による威嚇、輸出規制による経済的威圧、サイバー攻撃によるインフラ破壊、偽情報を用いたインフォメーション操作などを組み合わせて、相手国民の不安感を煽るとともに、政府への信頼感喪失から政治混乱を惹起させるなどである。
これらは、当初は有利な条件を作り出すために、次いで相手国社会の不安定化を狙って、そして最終的には自国の意思の強要を可能にするようにエスカレートしていく。