米国のピート・ヘグセス戦争長官(1月7日撮影、写真:ロイター/アフロ)
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 1月23日、米国の戦争省(国防総省)が「国家防衛戦略」(以下「防衛戦略と略す)を公表した。

 これは、昨年12月にドナルド・トランプ大統領の下でホワイトハウスが策定した「国家安全保障戦略」(以下「安保戦略」と略す)を受けて、ピート・ヘグセス戦争長官(国防長官)が率いる戦争省が作成したものである。

「安保戦略」は、「力による平和」を前面に押し出し、それまでの歴代政権による国際協調や欧州諸国による協力体制を真っ向から否定するトランプ流の考え方を示したもので、戦略というよりは政治思想表明に近い内容であった。

 これを受けて作成された「防衛戦略」も、このトランプ思想を反映する表現が多々用いられてはいるが、内容面では、より戦略らしい方針を明確に打ち出したものとなっている。

トランプ政治を超越した「国家防衛戦略」

 この「防衛戦略」では、戦略アプローチとして、米国本土防衛、インド太平洋における中国抑止、同盟国による負担増大、国防産業基盤強化の4点が明示されている。

 これらをすっきりと理解するためには、3つの地域戦略と、それを支える2つの政策に分けて考えてみるとより分かりやすい。

 3つの地域戦略とは、①米本土防衛とそれに不可欠な西半球の防衛の重視、②インド太平洋における中国に対する抑止態勢の維持、③それ以外の地域は同盟国主体で防衛、である。

 そして、これらを支える2つの政策が、同盟国等への防衛費増額要求と、国防産業基盤の強化ということになる。

 冷戦期から今に至る米国の国防戦略は、2½戦略(2つの大規模戦争と1つの中規模紛争に対応)や1½戦略(1つの大規模戦争と1つの中規模紛争に対応)などと変遷を重ねてきた。

 これらに対応するものが、今次「防衛戦略」で示されている3つの地域戦略である。

 トランプ政権下なので、これら3つの地域戦略は「米国の利益」のために米国の一方的な「力」によって達成されるように描かれている。

 しかし、これらの地域戦略は、ある程度の時間をかけて、それぞれの地域の同盟国や友好国と緊密に調整しつつ、相互の利益になるような形で追求することもまた可能であると思われる。

 これまで二大政党制が続いてきた米国においては、共和党政権と民主党政権が入れ替わる中にあっても、国防総省としては、一定の継続性を持って米軍戦力を構築、運用する必要があった。

 このため、政権交代によって表看板となるスローガンが変わっても、実態としてはある程度の継続性を持って国防を担えるような戦略を策定してきたと言える。

 トランプ政権下で国防総省が戦争省と名前を変えた今も、その点に変わりはない。

 今次打ち出された戦略には、トランプ大統領とヘグセス長官の下でその政治姿勢に従いつつも、今後一貫した戦略の下で米軍を構築、運用していこうとする戦争省スタッフの知恵が感じられる。

 もしも3年後に民主党政権が誕生したとしても、この米国の戦略的トレンドは変わらないと見るべきではないだろうか。

 軍事的・経済的な「力」で押し切るというトランプ流に替わって、将来米国が再び国際協調を重視するようになったとしても、米国がトランプ以前に戻ることはないと実感させるのが、この「防衛戦略」なのである。

 それでは以下、その3つの地域戦略の内容について概観してみたい。