トランプ関税の影響で総崩れ状態の株式市場(写真:AP/アフロ)トランプ関税の影響で総崩れ状態の株式市場(写真:AP/アフロ)

 世界に激震を与えているトランプ関税だが、ロシアとベラルーシ、北朝鮮には関税が科されていない。そもそもロシアとの貿易量が少ないという事情はあるが、その背後には、トランプ流のディール外交がある。(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ロシアとその協力国であるベラルーシ、北朝鮮が、米国による「相互関税」の対象から外れたことが波紋を呼んでいる。ロシアが対象から外れた理由として、キャロライン・レビット大統領報道官は、米国とロシアの間で意味がある貿易がなされていないことを理由に挙げた。

 実際、2024年の米国の対ロ貿易額はわずか35億米ドルだった(図表1)。

【図表1 米国の対ロ貿易収支】

(出所)米商務省センサス局(出所)米商務省センサス局

 とはいえ、ロシアよりも貿易額が少ない国や地域に対して、米国は相互関税を課している。米通商代表部(USTR)は関税率の根拠となる算定式を公表しているが、そもそも算定式に基づく計算自体が間違っている可能性すら指摘されている。

 そうした中で、ロシアやその協力国を相互関税の対象から外したことには、相応の理由がありそうだ。

 ここで、米国のロシアの貿易のすう勢を振り返ってみたい。

 1991年12月、ロシアの事実上の前身国家であるソ連が崩壊した。新生ロシアとの貿易は翌年から行われることになるが、米国の対ロ貿易は輸出と輸入の両面で盛り上がりに欠けた。

 その後、ロシア経済の混乱の収束を受けて貿易は拡大、2011年(430億米ドル)にピークを迎えた。

 しかし、2014年のクリミア危機を受けて、米国の対ロ貿易は縮小に転じる。その後、2022年のウクライナ全面侵攻によって、米国の対ロ貿易は激減した。

 輸出はほぼなくなったが、輸入は農業用の肥料や原子力発電に用いる核燃料の低濃縮ウランといった、極めて限定的だが、米国にとっては不可欠なモノに限定して行われている状況だ。

 トランプ大統領の支持基盤は米国の中西部や南部に集中しているが、そうした地域では農業が盛んだ。トランプ大統領が目の敵にする工業品の輸入はロシアからほとんどないが、肥料の輸入を制限すれば自身の支持基盤の地域の農家から反発を受けることになる。

 そのため、トランプ大統領がロシアを相互関税の対象から外した可能性が意識される。