韓悳洙大統領権限代行(写真:ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 6月3日の投開票が決定した韓国大統領選挙は、現時点の支持率を見る限り、李在明(イ・ジェミョン)「共に民主党」代表が独走態勢を築いているように見える。しかしここにきて、韓悳洙(ハン・ドクス)大統領権限代行が出馬の意向を明らかにしていないにもかかわらず、その動向が大統領選最大の変数となりつつある。

韓悳洙氏出馬への期待が高まる

 韓氏は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の罷免が決定した際、次期大統領選については一切言及せず、「国政運営に専念する」との姿勢を示していた。しかし、韓氏の出馬を求める声は、与党「国民の力」内から高まっている。さらに、トランプ米大統領との電話会談でも、トランプ氏から出馬の意向について尋ねられたという。

 尹氏の弾劾後、「国民の力」からは多くの議員や有力政治家が出馬の意向を示しているが、決定的な支持を集める候補は現れていない。このままでは、李在明氏が大統領に当選する可能性は極めて高いだろう。

 しかし、現在の困難な韓国情勢の中で、李氏が大統領に就任すれば、国の分断がさらに深まるおそれがある。加えて、李氏には国政運営の経験がなく、経済政策にも精通しているとは言いがたい。ゼロ成長に近づく韓国経済の立て直しを果たせるのか疑問が残る。さらに、李氏のこれまでの米中両国に対する発言からは、トランプ政権との関係がぎくしゃくする懸念もある。

 一方、官僚出身の韓悳洙氏は、OECD韓国代表部大使や金大中政権での経済首席秘書官、経済副首相兼財政経済部長官、さらには国務総理、駐米大使などを歴任してきた。経済危機やトランプ政権との困難な交渉を乗り切る“切り札”として、期待される人物である。

2007年12月、中国を訪問し、胡錦涛主席と会談する国務総理時代の韓悳洙氏(写真:ロイター/アフロ)

 韓氏の国政運営に対する肯定的な評価も広がっており、尹大統領の罷免後に行われたNBSテレビの世論調査では、韓氏の国政運営について「支持する」が56%、「支持しない」が37%と、国民の信頼の高さがうかがえる。