敵に塩を送るトランプ大統領の意図

 そもそもトランプ大統領は、ロシアとウクライナを停戦に導くことを公約に掲げて当選した経緯がある。ただ、その手法は両国を仲介するというよりも、それぞれを圧迫することで強制的に停戦に導こうというものだ。

 例えば、トランプ大統領はロシアを圧迫するため、同国産原油を輸入する国に50%の二次関税をかける意向を表明したばかりだ。

 一方で、米国とロシアは外交を活発化させており、高官級の協議を重ねてもいる。

 例えば、4月2日から3日にかけて、ロシアの政府系ファンド「ロシア直接投資基金」の総裁であるキリル・ドミトリエフ大統領特別代表(対外投資・経済協力担当)が、事実上の特使として、米国の首都ワシントンにおいてトランプ政権側の高官と会談している。

 協議の大きな論点の一つに、ロシアに埋蔵されている希土類元素(レアアース)の鉱山の共同開発がある。

 かねてよりトランプ大統領は、ロシア産レアアースについて言及してきた。トランプ大統領は事実上、ロシアに有利な停戦協定を用意する代わりに、ロシアに対してレアアースの権益を要求するという「ディール」を仕掛けているわけだ。

 トランプ大統領は、敵対する中国が生産するレアアースへの依存度を引き下げる観点から、ロシア産レアアースに興味を持っていると考えられる。

 もちろん、ディールを持ち掛けられたプーチン大統領も負けていない。トランプ大統領を上手く利用し、米欧を中心に科されている経済制裁に大きな風穴を開けて、その実効力を低下させようと試みている。

 手始めにロシアは、米国とともに、ロシアとドイツを結ぶガスパイプラインである「ノルドストリーム」の再稼働に関して議論を開始している。

 当事者であるドイツが含まれない構図が奇異ではあるものの、そのドイツのみならず、欧州ではロシアとの関係改善を望む声も強まっており、それをさらに喚起するのがプーチン大統領の狙いなのだろう。