
「年収の壁」問題で多くの現役世代の心をとらえた国民民主党。超高齢化社会では現役世代の負担は重くなる一方で、同党の「手取りを増やす」というわかりやすいメッセージが支持を集めた。「ねんきん定期便」に事業者負担が明記されるようになった背景には「現役世代の怒りがある」と分析する作家・橘玲氏は、昨今の政局と社会をどのように見ているのか。
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
>>前編:「厚労省の陰謀」暴かれた!ねんきん定期便に事業者負担分が明記、顕在化する「老人ファシズムvs現役世代の怒り」
インフレが現役世代の怒りに点火
──2025年3月に産経新聞社とフジニュースネットワークが実施した世論調査によると、20代・30代は自民党よりも国民民主党を支持していることが明らかになりました。さらに消費税減税を掲げるれいわ新選組もこれらの世代の支持を拡大するなど、「現役世代の怒り」が政局を左右しはじめています。
橘玲氏(以下、敬称略):率直にいって「日本人の現役世代ってこんなに怒るんだ」と驚きました。
前編でお話しした「ねんきん定期便から会社負担分の保険料が消えている」問題は2009年から繰り返し指摘してきましたが、すべてのマスメディアから無視され、ほとんど反響がありませんでした。それが今になって注目されるのは、日本経済が長いデフレから「脱却」し、日本人がどんどん貧乏になっているからでしょう。
デフレ時代の「失われた30年」で日本の国際的地位はすっかり下がりましたが、それでも物価はほとんど上がらず、会社でコツコツ努力していれば年齢とともに昇給したので、「頑張ったら(すこしは)報われる」と思うことができました。
ところが2022年のロシアのウクライナ侵攻を機に物価が上がりはじめ、実質賃金は3年連続のマイナスを記録しています。現役世代としては、これまでと同じように頑張って働いているのに、家計がどんどんきびしくなっている。「自分はこんなに努力しているのに、貧しくなる一方なのはなにかがおかしい」と思うのは当然です。

こうした中、現役世代のなかで、「手取りが増えないのは社会保険料の負担が重すぎるからだ」という声が大きくなっていきます。ドン・キホーテのように、「ねんきん定期便に会社負担分の保険料を記載しないのはおかしい」と15年ちかく言いつづけてきて、誰からも相手にされなかったのに、この数年、ネットにアップされた記事がSNSで紹介され、よく読まれるようになりました。
物価上昇に給与アップが追いつかず、実質賃金が下落し続ける中で、ようやく現役世代は「今の社会保障制度が自分たちを苦しめている元凶だ」と気づくようになったのでしょう。
この4月から厚生労働省は、ねんきん定期便に「事業主も加入者と同額の保険料を負担している旨を明記する」ことにしましたが、正直、SNSにこれだけの影響力があることに驚きました。でもこれは第一歩で、本来であれば「被保険者負担額」に自己負担と会社負担を合計した数字が記載されなければなりません。
そうなれば、すべてのサラリーマンが自分が納めた保険料の半分が「詐取」されている現実を直視することになります。いくら日本人がおとなしいといってもさすがに怒り出して、日本の「老人ファシズム」を変えていくと期待しています。
──厚労省は「27年から年収798万円以上(賞与を除く)の会社員の厚生年金保険料を引き上げる」という方針を示しています。