NISAが新たな分断を招く

橘:20代〜30代の現役世代がNISAをはじめとした資産運用に対して積極的なのは、公的年金への不信感が大きいからでしょう。国家も会社も自分の面倒を見てくれないなら、自分や家族が生き延びるためには「自助努力」しかないと考えているのです。そもそもNISAは、「税金をまけますから、老後のための資金は自分で運用・形成してください」という制度ですから。

 これは何も日本に限った状況ではなく、第2次大戦後のイギリスは「ゆりかごから墓場まで」というスローガンを掲げた労働党政権が医療費を無料にするなど福祉社会化を推し進めましたが、やがて行き詰まり、サッチャーが「小さな政府」へと舵を切ることになります。そのイギリスで1999年に始まった非課税積立制度がISA(Individual Savings Account)で、NISAはその日本版だから頭にNがついているわけです。

 日本だけでなく先進諸国はどこも高齢化で社会保障費が膨らみ、それとともに「(老後資金を含めた)社会保障は自己責任で」という風潮が強まっています。これは「ネオリベ」とか「市場原理主義」とかいわれて嫌われていますが、いくら政府や社会に文句をいっても誰も助けてくれないとしたら、自分の身は自分で守ろうとするのは当たり前です。こうして日本でも、ますます経済格差が広がっていくでしょう。

 20代からNISAなどで積極的に資産運用をしているいまの若者は、20年後、あるいは30年後に、「自助努力」を怠って貧困に陥った同世代のことをどう思うでしょうか。

 今は現役世代と高齢者の世代間対立が顕在化していますが、将来的には同じ世代の中での格差が拡大し、対立が先鋭化してくるでしょう。コツコツと地道に資産運用をしてきた「アリ」が、将来になんの備えもしてこなかった「キリギリス」をはたして助けようと思うのか。そんな日本の未来を想像すると、恐ろしくなります。

>>前編:「厚労省の陰謀」暴かれた!ねんきん定期便に事業者負担分が明記、顕在化する「老人ファシズムvs現役世代の怒り」