就職氷河期世代にくすぶる不満、妥協点なし

橘:第2次大戦によって植民地主義・帝国主義が破綻すると、先進国を中心に「国家の役割は国民の幸福を最大化すること」になりました。こうして欧州諸国で国民皆年金や国民皆保険が整備され、高度経済成長でゆたかになった日本がそれに追随します。

 日本で年金制度が始まった60年代は平均寿命も短く、60歳で引退して65歳で死亡することを前提に制度が設計されました。そのうえ当時の高齢者は戦争経験者で、戦後の復興に貢献してきました。ベビーブームで労働人口が増えていたこともあり、「現役世代からの仕送り」という理屈を誰もが受け入れたのでしょう。

 ところが現在は平均寿命が伸び、社会保障制度を維持するためのコストは増える一方です。就職氷河期で割を食っている世代からすれば、高度成長やバブルでいい思いをしたうえに、自分たちの負担で「悠々自適」をしているように見える高齢者を「支える」ことに疑問や不満をもつのは当然でしょう。

 そもそもバブル崩壊の90年代に新卒の若者たちが正社員として採用されなかったのは、当時40代~50代だった現在の年金受給者(団塊の世代)の雇用を守るためだったのですから。

 その一方で、退職して年金以外に収入のない高齢者にとって、年金を減らされることは「生きていくな」といわれるように感じるでしょう。年金世代も、その前の高齢者を支えるために年金保険料を納めてきました。現役世代と高齢者の双方に言い分があり、どちらが正しいと決めることはできないし、妥協点を見つけるのも難しいでしょう。

──現役世代の政治に対する最大の関心事が、軍事でも教育でもなく、「手取り」というのは象徴的です。