世界の株式市場は相互関税の導入で大きく下落している(写真:AP/アフロ)世界の株式市場は相互関税の導入で大きく下落している(写真:AP/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

昨年8月よりも明らかに深刻

 相互関税導入を受けた世界同時株安は反転の契機をつかめないでいる。現状では昨年8月の大暴落と比較する声が出ているが、その違いは明確だろう。

 昨年8月に関して言えば、①米国発ではなく日本発であったこと、②米経済失速懸念はあったものの実際は強かったこと、③原因となった日本の状況(≒日銀利上げ)もすぐに火消しが行われたことなど、動揺が短期で終息するだけの条件が揃っていた。

 内田日銀副総裁による③「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」との発言は今も市場参加者のよりどころとなっている節がある。現に、市場が織り込んでいる日銀の利上げ回数は、本稿執筆時点(25年4月8日午後)で0.75%への+25bp利上げは今年12月19日会合時点まで見越しても40%程度の織り込みにとどまっている。

 これに対し、今回は(A)日本発ではなく米国発であること、(B)相互関税は確実に米国経済を蝕むこと、(C)トランプ政権は意図的に混乱を引き起こしており止めるつもりがないことなど、当時と比較して根は深そうである。

 少なくとも発端となっている相互関税は即時撤回がない限り、「交渉を経て切り下げる」か「放置する」かの2択しかないため、当分不透明感は残らざるを得ないだろう。

 基本的に「交渉を経て切り下げる」という展開が断続的に進む中、金融市場のセンチメントが徐々に回復する展開をメインシナリオとするが、だとしても時間はかかる話である。

 当のトランプ大統領が「時には何かを治すために『薬』を飲まなければならないこともある」「市場のことは少し忘れて欲しい」と市場の混乱を気にかけていないため、根本的な不安払拭は当面の間、難しいと見た方が良い。

 この動揺を収める方法があるとすれば、やはり中央銀行の「次の一手」ということになるだろうか。