
(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)
米債権市場の不安は放置
相互関税の上乗せ分が90日間一時停止されるとの報道を受けて、国内外の金融市場が安定感を取り戻したと思ったのも束の間、依然、不安定な状況が続いている。
これまでのトランプ政権の言動を踏まえれば、この「90日間」が突如短縮される可能性も否めず、また短縮されなかったとしても90日後に同じ緊張感が戻ってくることになる。文字通り、問題の先送りである。
また、既報の通りだが、今回、トランプ大統領を翻意させた米国債利回りの急騰に関しては、中国資本の不在に原因を求める説が濃厚だ。
中国との間で関税戦争が続いている中、米国債市場は神経質な雰囲気に包まれているが、その状況は変わらないどころか、強まっていく恐れすらある。米国債市場に対する不安が放置された状況で、株式市場などに平穏が戻ることは考えにくい。
金利上昇に対して、政策金利の引き下げを敢行しようにも関税のもたらすインフレ誘発的な側面を踏まえれば、米FRB(連邦準備理事会)は動くに動けない。極めて閉塞感が強い状況である。
現状では、米中貿易戦争が何らかの形で落ち着きを取り戻さない限り、小康状態に行きつくのは難しそうである。