「片手に関税、片手に為替」

 もちろん、現時点で米国側から直接的な要求があったわけではなく、ベッセント財務長官の発言は単なる一般論とも読める。そもそも日本に限らず、為替が通商交渉の議題となるのは当たり前の話である。

 ただ、第二次トランプ政権の通商交渉は基本的には「片手に関税、片手に為替」を持った状態で進められており、関税を温存した状態では為替がツールとして持ち出されやすいと考えるべきだろう。

 しばらくは金利や需給といったファンダメンタルズを度外視した政治ゲームが起点となり、その結果としての金利や需給の変化を考察するという思考の順序が求められることになる。その意味で真正面からの経済・金融分析が報われにくい地合いに入っていると言えそうである。

※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年4月11日時点の分析です

唐鎌大輔(からかま・だいすけ)
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト
2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。