「為替を争点化する」という不穏なベッセント発言
過去の本コラムで繰り返してきた通り、筆者は円相場の需給構造は基本的に円売りに傾斜するようになっており、2013年以降は「円安の時代」が始まっていると考えている。
ただ、年初来のリスクシナリオとして極端な円高が起きるとすれば、プラザ合意2.0のような政治ゲームに巻き込まれた場合だという議論も再三行ってきた。
例えば、本コラムでは1月に「今年最大のテールリスク「プラザ合意2.0」はブラックスワンか」という記事を出している。円安の「時代」であっても、円高の「局面」が出現することはある。政治色を帯びた通貨政策が「局面」を変えることもあるだろう。
前述のコラムでも論じたように、プラザ合意2.0のようなリスクに関し、筆者はあくまで生起確率が極めて低いブラックスワンだと考えてきた。しかし、現況を踏まえる限り、ブラックスワンから通常のリスクシナリオ程度への格上げは検討する必要が生じているように思う。
既報の通り、日本は対米通商交渉のトップバッターに指名されており、相手はベッセント財務長官とされている。これに際し、ベッセント財務長官は「日本は引き続き緊密な同盟国であり、関税、非関税障壁、通貨問題(currency issues)、政府補助金を巡る生産的な取り組みを楽しみにしている」と述べ、為替が争点化することを隠していない。
「為替が争点になる」ということは、端的に「円の高め誘導を図る」ということを意味しそうだが、具体的に何が考えられるのか。真っ当に考えれば世界的にも低水準にある政策金利を引き上げるという話になる可能性が高そうだ。
事実、4月9日にはベッセント財務長官がFOXビジネスのインタビューに対し、「日本では円高が進行しているが、これは日本経済の強い成長とインフレ期待上昇の結果」「日本銀行は金利を引き上げており、すべては自然なこと」と述べている。円金利と円の相互連関的な上昇を支持する発言と見受けられる。