
(篠原 信:農業研究者)
トランプ大統領が世界経済を揺るがしている。一気に関税を引き上げたかと思えば、90日間の猶予を与えるという話になるなど、世界経済は振り回されっぱなし、世界各国の株価は乱高下を続けている。
記事によっては、トランプ大統領は何も考えていない、行き当たりばったりだ、という批判もあるようだ。しかし私には、トランプ大統領のこうした動きは、ニクソン大統領時代の時にはすでに約束されていた「必然」のように思える。そのことを本稿では考えてみたい。
原油取引はなぜドル建てなのか
ニクソン大統領が登場する前、ドルというお金はゴールド(金)と交換することを約束された金兌換紙幣と呼ばれるものだった。札束を銀行に持って行けばゴールドの塊と交換してもらえる。この約束があるから、ただの紙切れがお金として信用されていた。
ところがニクソン大統領はある日、とんでもない宣言を出した。1971年8月15日のこと。「今日からドルとゴールドの交換をやめます」宣言。これをニクソンショックという。ゴールドと交換する約束が失われたのだから、ドル札はただの紙切れになり、お金として信用されなくなるはずだった。しかし当時のニクソン大統領には、とんでもない懐刀となる男がいた。キッシンジャー。
いったいどんな魔法を使ったものか、世界中のどこに行っても石油はドル札でしか買えないという世界システムをいつの間にか構築していた。
こうなると、日本のように石油が採れない国は、石油を手に入れるためには何とかしてドル札を手に入れなければならない。そこでアメリカ様にテレビや冷蔵庫、自動車などを輸出して、「これでドル札を分けてください」とお願いする。
するとアメリカは「よっしゃ」とばかり、ドル札を印刷。日本はそのドル札を中東などの産油国に持って行って石油を買い、そのエネルギーで家電や自動車を製造する、という循環が起きていた。