恐らくだが、2020年に、このEROIという数字が急速に悪化し、3倍という数字に近づくのも遠い話ではない、という報告が世界中の指導者たちに伝わったのではないか、と推測している。ただし、何の証拠もない。単に2020年に急に世界各国が石油を燃やさない政策に舵を切った様子から、勝手に私が邪推しているだけに過ぎない。

 しかしもし、このEROIの数値が急激に悪化しているのだとすれば、ペトロダラーの構造は維持不可能となる。石油が採れなくなれば、いくら「石油はドルでしか買えない」という仕組みを維持しても、ドルの価値を守ってくれるものではなくなってしまう。ペトロダラー・システムの崩壊が、いよいよ決定的になったのが2020年という年ではなかろうか。

代わる仕組みはあるか

 前大統領であるバイデン政権は、ペトロダラーに代わるシステムとして、二つを考えていたのではないか、と私は仮説を立てている。その一つはSWIFT。世界の貿易決済で使われているシステムで、アメリカが牛耳っている。

 もう一つは、GAFAM。インターネットの世界で圧倒的な支配力を持っているGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの5つの会社は、いずれもアメリカ発祥。これらのネット企業がネット世界を牛耳れば、アメリカは今後も世界を主導する存在でい続けられる、という戦略を思い描いていたのではないか。

 しかし、これらのいずれもややほころびを見せている。ロシアがウクライナ侵攻したのをきっかけに、アメリカはSWIFTからロシアを締め出してしまった。これをきっかけにアメリカに反感を持っている新興国、代表的なところではBRICSが、SWIFTに代わる決済システムを構築しようとしている。

 また、GAFAMの支配も安定的とは言えない。中国やロシアは、これらアメリカ企業の開発したシステムとは別のものを構築しつつある。ペトロダラーに代わるかも、と思われたSWIFTやGAFAMでも、その支配力が世界に及ぶとは言い切れなくなってきた。

 そんなタイミングでトランプ大統領が2期目を迎えた。ペトロダラー・システムも、それに代わるシステムも構築できないのならば、アメリカは「ドル札を刷るだけで世界中から商品を買いあされる」という仕組みは維持できないことになる。ニクソン大統領の時代から続いてきたペトロダラー・システムは、いよいよ終焉を迎えつつあるように思う。

 そこでトランプ大統領が、あるいは彼を支えている人たちが考えているのが、「モンロー主義への回帰」ではないか。