
トランプ政権が移民を間違って強制送還した問題が波紋を広げている。政権が指定した「凶悪ギャングの一味」と混同されて送還された先は、エルサルバドルで約4万人を収容可能な「巨大刑務所」。同国のギャングを一掃するために設置され、拷問など人権を無視した環境で国際的に問題となっている刑務所だ。トランプ大統領もエルサルバドルのブケレ大統領も誤送還された男性の帰還を繰り返し否定し、人権意識の欠如の背景には根深い差別意識が透ける。それは、かつて日本人に向けられたまなざしを彷彿(ほうふつ)とさせる。
(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
4月18日、欧米メディアを騒がせた事件がある。その名も「マルガリータ・ゲート」。中米エルサルバドルのブケレ大統領はXに、3人の男性が縁に塩らしき粉末とチェリーのついた、2つのグラスを前にした画像を投稿した。
一見バカンスのひとコマのような画像だが、ジャケットにノーネクタイ姿の人物は米民主党・メリーランド州上院議員のクリス・ヴァン=ホーレン氏。そして野球帽に半袖シャツ姿の男性は、3月に米トランプ政権が「行政上の手違い」でエルサルバドルに誤って強制送還したキルマー・アブレゴ=ガルシア氏(29)である。
ヴァン=ホーレン議員は、マルガリータとおぼしき飲み物はエルサルバドル側によって勝手にテーブルに置かれたもので、ブケレ大統領らによる演出だと主張している。ヴァン=ホーレン氏が投稿した同じ場面の画像には、コーヒーカップと水らしき液体の入ったグラスが置かれているものの、「カクテル」は写っていない。
一体何が起き、画像のどちらが「真実」なのか。
エルサルバドル出身のアブレゴ=ガルシア氏は2011年、激しいギャング抗争が続く中で自身や家族が脅迫されるなどし、米国に不法入国した。2019年に不法滞在が発覚したが、当時の米移民判事によって、本国に送還されれば「将来的に迫害を受ける明白な可能性」があることを理由に、米国内に合法的に居住し、就労する権利を得た。
その後も定期的に移民局との面談を行い、米国人の妻らと問題なくメリーランド州に暮らしていた。しかし先月、厳格な移民政策を掲げるトランプ政権下で突然拘束された。3日後の3月15日、政権が「凶悪ギャングの一味」と指定した230人以上のベネズエラ人やその他数十人の移民と共に、エルサルバドルに誤送還されてしまった。
アブレゴ=ガルシア氏は、過去にギャングとのつながりを指摘されたことがある。だが、最近になり裁判所が、その根拠が裏付けのない漠然とした情報提供者による申し立てのみだと一蹴している。それにもかかわらず、トランプ政権は同氏の刺青を理由にギャングの一味だとしたり、不法滞在で摘発された際、ギャングがシンボルとした(プロバスケットボールの)「シカゴ・ブルズのキャップを被っていた」という警察の証言などをほじくり返したりし、同氏が凶悪な人物であると言い張っている。
最高裁がアブレゴ=ガルシア氏の帰還を求めているにもかかわらず、4月21日現在、同氏は未だエルサルバドルに拘束されたままだ。4月14日、米司法省はアブレゴ=ガルシア氏の帰還はエルサルバドル次第だとし、同日ホワイトハウスを訪問中だったブケレ大統領は「私に彼を米国に帰還させる権限はない」と言い放った。
アブレゴ=ガルシア氏が当初送られたのは、CECOTと呼ばれるエルサルバドルの「テロリスト監禁センター」だ。