「敵性外国人法」を密かに発動

 米政権は今回の「不法移民」の強制送還に際し、1798年に制定された「敵性外国人法」を適用した。米国に対し宣戦布告あるいは侵略などが起きた場合、大統領に、敵とみなした外国人を拘留ないし国外追放する広範な権限を与えるものだ。

 エルサルバドルへの大量の強制送還が強行された3月15日、米ニューヨーク・タイムズ紙の表現を借りればトランプ氏は「密かに」同法を発動した。人権団体は、平時に米大統領がこの法律を使い、裁判所の審査もなしに移民を国外退去させることは違法行為であると訴えた。

 最高裁は4月19日になり、これ以上、不法移民をエルサルバドルに国外追放することを一時停止するように命じた。本稿執筆現在の21日までに、度重なる要請にもかかわらずアブレゴ=ガルシア氏の帰還にさえ非協力的な政権が応じるかは不明である。

 敵性外国人法は第2次世界大戦下の米国で、12万人にも及ぶ罪なき日本人および日系人に対して適用された。このうち7割の人たちが米国籍保持者であり、その他の人たちも合法的に暮らしていた。同法適用により、人々は財産を没収され、強制収容所へ送られた。

 同法を日本人や日系人に適応したのは当時のルーズベルト米大統領であるが、同氏は戦前から日系人が「米社会に適合できない」「人種的な危機」と公言するなど、日本人に対するあからさまな差別主義者であったことでも知られている

 現代の感覚に照らし非常識な発言ではあるものの、これは、白人至上主義を掲げ他人種の追放を是とするトランプ政権の極右支持者らにそっくり通じる思想である。そして、ルーズベルト大統領の後を継ぎ日本への原爆投下を決行したトルーマン大統領も日本人について「獣と対峙しなければならない時は、獣として扱わなければならない」と述べ、その正当性を主張している