トランプ大統領による利下げ圧力にさらされているFRBのパウエル議長(写真:AP/アフロ)トランプ大統領による利下げ圧力にさらされているFRBのパウエル議長(写真:AP/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 米トランプ政権によるインフレ政策でドル相場は堅調に推移する──。年明け、そうした見方を提示する市場関係者は多かったように記憶している。ところが、現実はそうならず、トランプ政権によるインフレ政策の結果、ドル相場は軟調そのものとなっている。この間のドル円レートが158円から141円まで下落したことが、何よりの証左だ。

 筆者はシンクタンクのエコノミストであり、相場の展望を専門とはしていない。一方で、各国の通貨問題や国際通貨体制に関しては強い関心を抱いている。通貨の変動が国の経済や政治を反映するためだが、今のドル安は米国経済のどのような問題を反映しているかというと、それは間違いなく米国の財政運営に対する疑義である。

 今のドル安は債券安、つまり金利高と同時に生じている。金利高にもかかわらずドル安なのは、トランプ政権の下で米国の財政運営が不透明感を増しており、本来なら超が付く安全資産であるはずの米国債の保有を手控えているからだ。信用力が低下した米国債を裏打ちに発行されるドルの価値も、低下して当然ということになる。

 傍若無人なトランプ政権は世界経済を圧迫し続けている。同時に、法治国家であるはずの米国の透明性を棄損し続けている。

 例えば4月7日、大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長がハドソン研究所で行ったトランプ政権の経済運営に関する講演の内容は、米国の透明性が棄損されていることの、端的な事例である。

 この時、ミラン委員長は米国債を保有している投資家に対して、30%の源泉徴収を科す可能性に言及した。投資家にとってはまさに寝耳に水だ。仮に実施されなくても、政権の高官がそうした発想を公にすること自体、米国の透明性を棄損する行為である。投資家が米国債や米ドルを売るのは、ある意味で当然の帰結だろう。