事実上のQE再開で実現するホラーストーリー
パウエル議長が言うように、トランプ大統領による議長解任は、法的な正当性を欠くため不可能である。もっとも、解任を主張するトランプ大統領が新議長を一方的に任命する可能性は否定できない。その時、投資家は米国債でありドルに売りを浴びせることは間違いない。このタイミングで、ドル不安はドル危機へと転換するだろう。
過去の金融危機では、質への逃避という観点から米国債やドルに買いが入ったが、この後で意識される危機は米国の政府そのものが震源地となるため、それとは真逆の事態が生じる。
その時の議長がパウエル議長だろうと、トランプ政権が一方的に任命した新議長だろうと、FRBは米金利の急騰を抑制するため国債を買い入れざるを得ない。
これは量的緩和(QE)の再開を意味するが、過去と異なり、財政の貨幣化(財政ファイナンス)の性格を強くするものだから、理論的に考えれば、グローバルなドル安圧力となる。
しかし、繰り返しとなるが、これは米国の信用力であり透明性のさらなる棄損の下で成立するドル安である。これを取り戻すまでには、非常に長い歳月がかかる。
こうしたホラーストーリーが実現しないよう、米国でも様々な識者であり政治家が声を上げている。とはいえ、それにトランプ大統領が耳を傾ける、ないしは大統領を支えている共和党の議員らが大統領に見切りをつけるまでには、残念ながら、ホラーストーリーの序章までは、少なくとも読み進めなければならないのかもしれない。