ドルに勝る流動性がないという事実
トランプ大統領の政権運営は、米国債やドルの信用力を棄損させるものだ。かといって、ドルを中心とする国際通貨体制の終わりが始まっているという見方も早計だ。なぜならば、世界経済はドルに勝る国際流動性、つまりクロスボーダー決済の手段を有していないからである。それゆえに、ドル離れが進むとしても、そのテンポは緩やかとなるだろう。
金価格は確かに高騰しているが、金そのものには流動性がないため、決済の手段にはなり得ない。ユーロや日本円の流動性はドルを補完する程度に過ぎないし、中国元はなおのこと流動性に乏しい。それに、唯一の超大国である米国でさえ信用力や透明性を失うのだから、ネットワークにのみ裏打ちされた暗号資産がドルに代わることもない。
世界経済にとって、ドルを頂点とする国際経済体制は大きすぎて潰せない性格を持つという事実を、我々は冷静に見据える必要がある。現在を1920年代の再来と捉える向きもあるが、当時と比べても、世界経済におけるドルの役割には雲泥の差がある。そうであるからこそ、引力と斥力の相克の間で、世界経済は今後も揺れ続ける。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。