
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
ロシア連邦統計局(ロスタット)が4月11日に発表したところによると、同国の2024年の実質GDP(国内総生産)成長率は4.3%増と、前年(同4.0%)からさらに上昇したようだ。
政府と中銀の予測を大幅に上回る成長率だが、けん引役は主にウクライナとの戦争で膨らんだ軍需であり、それが民需を圧迫し続けている。
軍需は公需の一つだが、その公需はそもそもクラウディングアウト効果を持つ。
経済活動を行ううえで、ヒト・モノ・カネという生産要素は有限だが、公需が膨らめば、それに生産要素が吸収されてしまうため、民需向けのモノやサービスの生産が圧迫される。軍需はそうしたクラウディングアウト効果が非常に強い公需である。
このように軍需がけん引する経済成長の綻びが、労働市場にいよいよ表れてきたようだ。
労働需給のひっ迫を受け低下し続けてきたロシアの失業率だが、2024年10月の2.3%を境に下げ止まっており、横ばいとなった(図表1)。失業者の減少にも歯止めがかかるようになっており、いわゆる完全雇用に達したようにも見受けられる。
【図表1 ロシアの雇用統計】

しかし、年明け以降、ロシアの企業が雇用整理を進めているという報道がなされるようになっている。
例えば、独立系のオンラインメディアであるThe Bellは、2月12日付の記事で、ロシア最大のSNSフコンタクテ(VKontakte)を展開するVK社(親会社はガスプロム社)や大手通信MTC社などで、雇用整理の動きが進んでいると報じた。
また、同じ記事でThe Bellは、ガス最大手のガスプロム社や金融最大手のズベルバンク(ともに国有)も、雇用整理を計画中だと報じている。
VK社やMTC社はまさに民需向けサービス業であるし、ガスプロムも経済制裁のために十分に収益を上げることができていない。軍需の恩恵を得ていない産業の業績は、着実に悪化しているようだ。