製造業にも及び始めた雇用整理の波

 こうした雇用整理の動きは、サービス業のみならず、一部の製造業にも広がりを見せている。

 4月23日付のモスクワタイムズ紙は、大手農業機械会社であるロストセルマッシュ社(Rostselmash)は、業績不振に伴い従業員2000人を解雇したと報じた。高金利のために農家が農機を買う意欲を失っていることが販売不振の大きな理由だという。

【図表2 ロシアの金利動向】

(注)貸付金利は非金融部門の平均水準 (出所)ロシア中銀(注)貸付金利は非金融部門の平均水準 (出所)ロシア中銀

 ロシア中銀は高インフレを封じ込めるため、4月の金融政策決定会合でも政策金利を年21%で据え置いた。一方で、貸付金利も政策金利に連動して20%を超える水準で推移しているため、農家は農機の購入を手控えている。

 高インフレであり高金利の主因は軍需による民需の圧迫にあるため、農機の不振もまたクラウディングアウトの一例だ。

 また、相応に貯蓄がある農家の場合、預金を寝かせておくことで金利収入を得ることができる。このこともまた、農機の販売不振につながっているようだ。

 農機が販売不振となれば、ロシアの生命線の一つである農業の生産にも悪影響がおよぶ。ロシアは近年、穀物輸出を経済成長のけん引役に位置付けているが、そうした戦略にも狂いが生じる。

 一般的に、戦時下の経済では、軍需の恩恵を受ける産業は活況を呈するが、反してその恩恵を受けない産業は不振に喘ぐものである。ロストセルマッシュ社の不振は、戦時経済化が進むロシア経済の厳しい内実を浮き彫りにするものだ。

 軍需の恩恵を受ける産業が堅調とはいえ、そうした産業が受け入れ可能な雇用にも限界があるのが現実だろう。